「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
7、8年前、東京・上野の寄席で注文を受けたのです。「小津安二郎」って。困りましたね、全然世代じゃないので。紙切りは、お客さんの注文を受けて即興で切りますが、知らないものは難しい。でもお客さんは待ってくれない。頭に浮かんだ「東京物語」を切り出しましたが…………。これがきっかけで、小津映画を見始めました。
流し見で何度でも楽しめるのが、「秋刀魚の味」。紙切りの稽古をしながらとかお酒を飲みながら、途中トイレに行って戻ってきて、「ああ、もうここか」。映画ファンに怒られそうですね。サンマはいつ出てくるんだろう、焼くシーンでもあるのかなと期待するのですが、これが一切出てきません。あらすじはあるようでないのです。起承転結の起と結なら、娘がいて、結婚する。その間は借金してまでゴルフクラブを欲しがったり、おじさん3人がうだうだ言いながら晩酌したり、と何があるわけでもなくて。「いやあるよ。十分ありますよ。あるんだ」「そうかな、あるかな」「あるある」と、まどろっこしい会話も癖になってきます。わざと感情を込めない言い回しをしているようにも聞こえる。そうすると、見ているこっちの感情がこもるので。
カメラも役者も動かない。机の上には小道具が不自然に散らばっている。なんか笑っちゃうんですよ。でも、瓶はこう置けば邪魔にならないのか、と構図の勉強になります。紙切りは、シルエットで伝え、「何してるんだろう」と物語は想像して補う。この映画は、どこを取っても、紙切りっぽいですね。
(聞き手・島貫柚子)
監督・共同脚本=小津安二郎
製作=松竹 出演=笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子ほか
はやしや・らくいち 1980年神奈川県生まれ。故・三代目林家正楽師匠に憧れ、紙切りに。10日まで、東京・上野の鈴本演芸場と浅草演芸ホールの夜席に出演。
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