「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「新しいものを見た」。学生時代に見てそう思いました。登場人物3人の日常とそこから派生した出来事を淡々と描いているだけ。何も起こらない。主人公のウィリーは、はじめは嫌々自宅に泊めていた従妹(いとこ)のエバをだんだんと気に入ってきます。派手なアクションはないのに、自然な描き方でそれが分かる。しみじみ良い、と初めて感じた映画です。
映画のシンボルであるスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの音楽を、2人がカセットで聞いている場面を切り絵で作りました。この音楽を「好き」「嫌い」とたびたび言い合うところがあり、そのやり取りもささやかでいいなと思って。小さな会話やできごとが積み重なっていて、見ていて飽きません。モノクロ映画ですが、実際のカラーを想像して制作しました。
開けにくい戸棚とかきちっとしていないカーテンとか、演出されていないそのままの部屋の生活感が好きです。服装も飾り気がない。あと、カメラが切り替わる瞬間にエバがニヤッとするのは素の表情が映り込んだのかも……そういう所も見ていて楽しいですね。最後は3人に掛け違いが起こって、何も解決せずに終わってしまいます。
目の前で起きている出来事を見ているようなシンプルなアングルや構図は、自分の作風に影響しています。日頃スポットを浴びないような場所にひかれます。曇り空の下で歩いている人、働きに行く途中の道……。自分が見つけないと誰かの目にふれることはなかった、そんな風景を描きたいと思っています。
(聞き手・深山亜耶)
監督=ジム・ジャームッシュ
製作国=米・西独 出演=ジョン・ルーリー、エスター・バリント、リチャード・エドソンほか
ばんない・たく 1972年、東京都生まれ。コラージュ作品のほか、フォルクスワーゲン広告、コカ・コーラ「綾鷹(あや・たか)カフェ」のビジュアルなどを手がける。
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