秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
主人公は、旧チェコスロバキアから移住し、米国の田舎町で工場に勤めるシングルマザーのセルマ。視力を失いつつあり、アマチュア劇団では役を降り、仕事も解雇され、ある事件を起こします。幸福には見えない状況の中で追い詰められていく話といえるのかもしれません。ただし、それは「彼女の外側」から見た場合です。淡々とした物語に、夢想のシーンが何度も挟み込まれます。視力が弱いセルマは、工場の機械音や列車の音に耳を澄ませ、心の中で同僚や隣人とともにミュージカルを演じる。踊る彼女の表情は、とても光に満ちています。
見終わった印象は、セルマの可愛らしさと純粋さでした。人によっては、きれいなコミュニケーションがとれる女性を「強い」と呼ぶのかもしれません。しかし、自分の内に向かって明るく強い人もいます。セルマが心の内の世界でだけ披露する圧巻のミュージカル。私たちにとっての心の内側は、環境に左右されることが多い体の外より、少しだけ自由だと自分は信じたい。
ドキュメンタリータッチといわれますが、むしろ童話的なものを感じます。作り物であるがゆえに、鑑賞者は話に入り込んで、そこにリアルな感情を抱くことがあります。セルマが目が不自由だからこそ、音楽を感じるように。彼女は自分の責任、選択で道を歩いたのち、ついに自分の内側に音楽を見つけます。外からはそう見えなくても、きっと彼女は、自由です。
聞き手・井上優子
監督・脚本=ラース・フォン・トリアー
製作=デンマーク
出演=ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ、デビッド・モースほか たかはし・しん
代表作に「いいひと。」「最終兵器彼女」。「花と奥たん」連載中(週刊ビッグコミックスピリッツ)。4月以降と今夏に新連載予定も。 |