つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
主人公の少女ペネロピは、豚の鼻と耳がついて生まれてきた。魔女が先祖に呪いをかけたせいで。母親が「なんて可哀想な子」って幽閉生活を送らせる中、ペネロピと父親は、それほど悲観的に振る舞わない。家族3人が、悲劇の底に落ちないっていうのが好きです。
呪いを解くために運命の人を探すペネロピ。だけどマジックミラー越しのお見合いはいつも失敗。クスッと笑えるシーンだからこそ、「やっぱりこの顔じゃダメなんだ」と傷つくのがいとおしくて。
恋に落ちた相手、マックスは「いつかは外へ出なきゃ」とペネロピを諭すものの、「本当は外の世界も面白くない」と言い直す。しかし、ペネロピはマフラーで鼻を隠しつつ、自分を奮い立たせて家出する。この場面を絵に描きました。彼が悲観するその世界へ立ち向かう姿に、女性らしい強さを感じたんです。いっぽう両親は、大きな屋敷で娘からの電話をひたすら待つ。でも自宅の電話機が多すぎて、鳴ってもどこだかわからない。切なさには笑いが隠れている。そんな心の持ちようが現実にも大事だと思える。
初めて見たのは、演劇の宣伝美術を担当していたころ。映画は色鮮やかなのに、この試写のパンフレットはモチーフが黒いシルエットだけで表現されていた。白黒は想像もふくらむし、主人公が「自分の色」を探す物語ともぴったり。以来、僕は白黒の絵を好んで描くように。アートワークの道筋をガラリと変えてくれた作品です。
聞き手・石井広子
監督=マーク・パランスキー
製作=英
出演=クリスティーナ・リッチ、ジェームズ・マカボイ、キャサリン・オハラほか |