「五感で楽しめる」県立美術館 2015年4月24日(金)、「日本一のおんせん県」を名乗る九州・大分に大分県立美術館(OPAM)が開館します。長崎県美術館(2005年)、青森県立美術館(2006年)以来、9年ぶりに新設される県立美術館です。
パナソニック汐留東京本社ビル4階にある企業が運営する小規模ながら「建築・住まい」「工芸・デザイン」、そして約230点のコレクションを誇る「ルオー」をテーマとする展覧会を毎年4回開催しています。国公立の美術館に比べると展示面積も限られていますが、そこを補ってあまりあるのが、自社の最新照明器具による展示照明です。
今でこそ、LED照明を展示室に採用している美術館・博物館が多く見られるようになり珍しさも薄れましたが、LED照明が認知され始めた2011年には、他のミュージアムに先駆けて100%全館LED化を実現したのが、パナソニック汐留ミュージアムです。
そのわずか数年後にはエルミタージュ美術館、チェコのプラハ城など海外の世界遺産を照らすLEDも担うまでに成長を遂げた陰には、この美術館で培われたノウハウが生かされています。また今や東京観光の新名所となった東京スカイツリーをはじめ、身の回りの様々な場所にLED照明が用いられていることはここであらためて述べるまでもありません。
LEDウォールウォッシャやLEDスポット照明といったハード面の開発だけでなく、この美術館には専属の照明技術チームが存在します。絵画から生活デザイン、建築といった異なる展示内容に合わせて多彩な照明パターンを作りだしています。限られた展示スペースを展覧会ごとのみならず、ブロックごと、作品ごとに照明を変え展示に工夫を凝らしています。また昨年からはスペースプレーヤーと呼ばれるプロジェクター機能を備えた照明器具を新たに導入し他館とは違う手法を積極的に採用しています。
しかし照明はあくまでも作品を引き立てる「陰」の役割を果たすもの。それ自体が目立ってしまっては元も子もありません。作品をじっくり鑑賞し満足した後に、今度は照明を気にしながらもう一周するのがよろしいのではないでしょうか。展覧会巡りの楽しみが広がる瞬間です。
実はここでの照明技術のノウハウが他の美術館にも生かされているのです。「ミュージアム照明のショールーム」的な側面も兼ね備えているパナソニック汐留ミュージアムでは年に一回、学芸員向けの照明研究会も行っているそうです。創業者松下幸之助の「企業は社会の公器である」の理念に基づいた世界でも類を見ない企業ミュージアムです。
2003年4月「松下電工NAISミュージアム」としてオープンし、翌年8月に「松下電工 汐留ミュージアム」に改称。2008年10月には「パナソニック電工 汐留ミュージアム」に再度改称し、そして2012年には再び「パナソニック汐留ミュージアム」へと名称を変えました。10年の間に4回も美術館の名称が変わるというのも他ではあり得ないことです。企業名を冠する美術館の運命と言っても過言ではありません。でもあらためて言われてみないと4回も名称を変更したなんて気が付かないかもしれませんね。なお、展示室の一角を占めるジョルジュ・ルオー作品を常設展示するルオーギャラリーは、ルオー財団によりルオーの名を冠することが許された世界で唯一の空間です。 |
パナソニック 汐留ミュージアム
〒105-8301
東京都港区東新橋1-5-1
パナソニック東京汐留ビル4階
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日(祝・祭日は開館)、展示替、年末年始
電話:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
URL:http://panasonic.co.jp/es/museum/
【筆者プロフィール】
中村剛士(なかむら・たけし)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆なども。
http://bluediary2.jugem.jp/