「五感で楽しめる」県立美術館 2015年4月24日(金)、「日本一のおんせん県」を名乗る九州・大分に大分県立美術館(OPAM)が開館します。長崎県美術館(2005年)、青森県立美術館(2006年)以来、9年ぶりに新設される県立美術館です。
昨年(2013年)の秋、前橋市にオープンしたアーツ前橋は今後の地方美術館の新しい在り方を指し示しています。一般的に自治体が公立の美術館・博物館を新たに作る場合その建物自体や維持費などが問題となります。いわゆる「ハコモノ」と評されるゆえんは、それが無駄な出費と思われてしまうからです。
前橋市に市立美術館を作ろうという思いを形にするために、市民とのワークショップ(意見交換会)を何度も開いたそうです。そこで出された意見などを通し「既存の建物の再利用」というこれまでの公立美術館建設にはなかった結論が採択されました。実際にアーツ前橋は、市の中心街にあった元西武百貨店をコンバーション(用途変更)したものなのです。
その土地の記憶を引き継げる民間の大型商業施設を非日常的なアート空間として新たな命を与えることにより、街に新たなにぎわい、人々の流れを取り戻すことに成功しています。これは地方都市の抱える中心市街地の空洞化問題解決のひとつの方策としても注目を集めています。
居丈高にアートを押しつけるのではなく、市民のための文化活動の拠点として、もっとくだけて言えば街中の気軽に立ち寄れる「寄合」として機能していくことを目指している新しい形の美術館なのです。全てフリースペースとなっている1階などはそれが顕著に現れています。カフェ、ショップ、アーカイブなどを備えており、まさにふらりと立ち寄れる場として機能しています。
美術館の中心部分は、解放感と共に、地下の有料展示スペースものぞけるユニークな大きな吹き抜け構造になっています。実は百貨店時代にエスカレーターが稼働していた場所を転用しているのです。その他にも構造上不要となった非常階段にコミッションワーク(恒久展示)として照屋勇賢の《静のアリア》を設置するなど様々な取り組みが見られます。
美術のみならず、演劇、映画、ダンス、音楽など多様なジャンルのアートを街中から市民と共に発信していく未来志向のアーツ前橋の誕生により市街地も着実に変わって来ているそうです。
2014年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)をアーツ前橋が受賞しました。既存の施設の柱梁などの主要構造体を残しつつ、躍動的な回遊空間に生まれ変えている点や、ゴムを利用した館内サイン計画も楽しいサステナブルなデザイン要素として効いている、などの高い評価を得て、公共用施設として今回の受賞につながったそうです。リノベーションにより「創造的であること・みんなで共有すること・対話的であること」の3つのコンセプトを具現化したアーツ前橋は、最も「今」の時代を感じられるミュージアムでもあるのです。 |
アーツ前橋
〒371-0022
群馬県前橋市千代田町5-1-16
開館時間:午前11時~午後7時(入場は閉館時間の30分前まで)
休館日:毎週水曜日
電話:027-230-1144
URL:http://www.artsmaebashi.jp/
【筆者プロフィール】
中村剛士(なかむら・たけし)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆なども。
http://bluediary2.jugem.jp/