読んでたのしい、当たってうれしい。

建モノがたり

OYAKI FARM BY IROHADO(長野市)

土にかえる建築 地元産ふんだん

おやきは定番7種のほか季節・期間限定品(各240円~)を販売。午前9時半~午後6時。不定休。問い合わせは026・214・0410
おやきは定番7種のほか季節・期間限定品(各240円~)を販売。午前9時半~午後6時。不定休。問い合わせは026・214・0410
おやきは定番7種のほか季節・期間限定品(各240円~)を販売。午前9時半~午後6時。不定休。問い合わせは026・214・0410 木の表情が美しい売り場。階段を上ると山並みを見渡せるスカイデッキがある

長野インターチェンジに近い道路沿い。山並みを背景に、円弧を描く屋根や立ち並ぶ柱が印象的な建物は何?

 小麦粉やそば粉生地の皮に野沢菜やキノコ、山菜などを包み込む信州の郷土食「おやき」。「OYAKI FARM BY IROHADO」は1925年創業の老舗「いろは堂」の工場兼店舗として昨年7月にオープンした。製造現場の見学、おやき作り体験ができ、カフェコーナーもある。

 施設が立つ長野市南部の篠ノ井地区には「赤い土器」で知られる縄文~弥生時代の集落遺跡が見つかっている。設計を担当した遠野未来さん(60)はそんな土地の歴史をふまえ、「地域の素材を使い、地元の土にかえっていく」建築を目指した。

 丸いおやきを象徴するように円弧を描く建物の入り口は、直径約5メートルの円形のホール。風除室の機能もある空間の壁は、土を上から突き固め層状に積み上げていく「版築」で造られている。

 版築には基礎工事で出た残土や粘土、消石灰などを使い、2カ月間かけて手作業で突き固め表面保護材で仕上げた。「1メートルの土ができるのに、数万年かかるといわれます。そういう長い時間軸の中で人間やそのほかの生き物が生きていることを感じてほしい」と遠野さんは話す。

 全体は長野県産のスギやヒノキをふんだんに使った木造建築。万一の火災の際、燃えると思われる厚さ(燃えしろ)をあらかじめ見込んでおくため、構造材には県南部・根羽村産の大断面の木材を選んだ。ホールに見られる柱やはり、階段などの接合部は寺社も手がける市内の工務店の技術が生かされている。

 オープン直後は入場整理券を配るほどの盛況だった。「全然予想していなかった」と笑う伊藤拓宗専務(38)は、「たまたま通りかかって来てくれる人がとても多い。建物の持つ力だなと思っています」と話した。

(宮嶋麻里子、写真も)

 DATA

  設計:遠野未来建築事務所
  階数:地上2階
  用途:店舗、工場
  完成:2022年

 《最寄り駅》 長野駅からバス


建モノがたり

 車で約4分の川中島古戦場史跡公園は、武田信玄と上杉謙信の戦いで知られる古戦場跡地。約8万7300平方メートルの敷地に芝生広場や小川が整備され、隣接する八幡社には謙信の太刀を信玄が軍配で受け止めたという一騎打ちの銅像がある。問い合わせは長野市都市整備部公園緑地課(026・224・5054)。

(2023年4月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

建モノがたりの新着記事

新着コラム