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佐渡裕さん「成功を実感音楽の花を咲かせたい」

兵庫県立芸術文化センター 開館20周年記念事業を発表
     

 来年10月で開館から20周年を迎える兵庫県立芸術文化センター(西宮市)は、今月から1年間、記念事業を催す。開館から芸術監督を務める指揮者の佐渡裕さんは「20年は大きな節目。文化を一緒につくってきたファンの皆さんと楽しむ1年にしたい」と話している。

 芸術文化センターは阪神・淡路大震災から10年にあたる2005年10月、心の復興拠点をめざして開館した。年間のイベント数は約750、公演の入場者は平均約45万人にのぼり、3月には公演入場者数が累計850万人を超えた。劇場付きの兵庫芸術文化センター管弦楽団もある。毎年夏に佐渡さんがプロデュースするオペラを自主制作するほか、近くの住民が訪れやすい平日昼間の公演も増やす。高い企画力と観客動員力は全国から注目されている。

 11月25日の記者会見に出席した佐渡さんは「舞台芸術で心豊かな街をめざすというプレッシャーの中でスタートしたが、ほかではできない多くを実現できた。熱いお客さまに支えられ、本当に成功したという感覚がある」と振り返った。

 成功の原動力に挙げたのは自身がプロデュースするオペラプロジェクト。2千人収容の大ホールを1週間以上満員にするロングランに毎年挑み、通算12公演を数えた2008年の「メリー・ウィドウ」、2006年に上演して昨年再演を果たした「蝶々夫人」など話題作を送り出した。「世界を代表するオペラハウスでもここまでは実現できない。オペラや交響曲を初めて見聞きする人たちにとって、優しい劇場でありたいと願って取り組んできた。オペラはこの劇場の宝物になっている」と手応えを言葉にした。来年7月には20作目となる「さまよえるオランダ人」を上演する。

 国内外からオーディションで集めた若手演奏家でつくる管弦楽団の存在も芸術文化センターの特徴づくりに貢献する。逸材を地域ぐるみで育てる趣向で固定ファンを獲得。毎年9回開く定期演奏会をはじめ、楽団主催の公演は入場率が90%以上を誇り、卒業生は関西フィル、N響、ミュンヘン・フィル(ドイツ)、フィラデルフィア(米国)など各地の楽団で活躍する。佐渡さんは「僕が想像していた以上にメンバーの成長はすばらしい。皆が夢を貫き、これからが楽しみ」と期待を寄せる。

 20周年記念事業は12月29~31日に大ホールで開く「ジルヴェスター・スペシャル・コンサート2024」で幕を開ける。来年1月17~19日には震災30年に合わせ、「マーラー8番『千人の交響曲』」と題し、佐渡さんの指揮のもと、マーラーの大作を独唱・オーケストラ・合唱の大編成で披露する。17日には石川県七尾市の茶谷義隆市長を招き、能登半島地震の被災地での舞台芸術活動支援を目的に観客から集めた募金約1千万円を贈る。5月はトーンキュンストラー管弦楽団と反田恭平(ピアノ)が共演、6月には山田和樹がバーミンガム市交響楽団を指揮する。

 音楽と両輪で力を入れる演劇は、10月に栗山民也演出によるプロデュース作品「明日を落としても」を自主制作。開館時から毎年出演し続ける西宮在住の笑福亭鶴瓶や桂文珍も高座に上がる。会見に同席した永富志穂子エグゼクティブ・プロデューサーは「今年からは夜に1時間程度のコンサートを開くなど、働く方や外国人観光客を意識した企画も始めている。これからも兵庫ゆかりの方や次世代の旬のアーティストを積極的に紹介したい」と話した。

 

 

 ウィーンの名門で110年以上の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を2015年から務める佐渡さん。昨年4月には新日本フィルハーモニー交響楽団の第5代音楽監督にも就任して多忙となる中、20年を超えた兵庫の去就に関心が集まる。佐渡さんは「大好きな音楽を指揮できるのは自分にとって天職。音楽という範囲を超え、地域とともに劇場の価値を20年かけてつくれたのは夢のようだ。まだ種まきの時期で花が咲くのはこれから。ここが僕のベースであることは変わりません」と語った。

(鈴江元治)

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