秋はキノコのつけ汁、冬は鴨南蛮、春は山かけ、夏は梅おろし。季節に応じて旬のものをいただける、ここ数年でベストワンのおそば屋さんです。

　最初に友人から「とびっきりおいしいおそば屋さんがあるよ」と薦められたときは、いぶかしむ気持ちもありました。「富山は水がいいから特別おいしいなんてそう無いんじゃない？」って。行ってみたら古民家のなかに、お座敷を改築した客間、センスのいいジャズなんかが流れていて。「これは期待できるぞ」と向き直ったのを忘れもしません。

　富山県八尾産、在来種のソバの実からなる十割そば。ふいに切れてしまうこともなくツヤツヤです。おつゆのほのかな甘みがまた絶妙。そば湯で割ったら飲み干しちゃう。

　富山市内で食堂を営んでいたご夫婦が切り盛りしてらして、そばに負けず劣らず、ご飯もおいしい。だから定食もおすすめです。立派なシャケが入ったおにぎりは、ほほが落ちるぐらいおいしいの。

　生まれ故郷の空気や水、人々のゆとりをギュッと詰め込んだおそばです。あやかって私もホッとひと息つけるような。月に２度ほどラジオの収録で富山に帰ると、必ず立ち寄るようになりました。

　　◆富山県上市町下青出９６（☎０７０・５６３５・９３１５）。［前］１１時半～［後］２時。１５９５円（２種盛り）、１５４０円（田舎）、１４８５円（せいろ）。月火休み。

　　　むろい・しげる　俳優。富山県出身。主人公の友人・神田サツキ役として舞台「喜劇　老後の資金がありません」に出演。京都・南座（１月１４～２８日）、東京・新橋演舞場（２月１～１９日）で公演予定。