舞台の演出が仕事ですが、現場によっては小道具の準備もそのうちです。そんなときは、風変わりなものを探すのに重宝する東京・中野を探し回ったあと、「よし、フォー食べて帰ろう」って。肩の力を抜いて、ふらっと入りたくなるお店です。

　豆乳スープが胃に優しく、じんわり体を温めてくれます。麺はツルッと食べやすい。日本のお米を使った生麺なので、ベトナムの生フォーよりもモチモチした食感なんだそう。麺と一緒に口に含む野菜によって、コロコロ味の変化も楽しめるのは、具だくさんならでは。香りのいいハス茶も一緒に頼んで、ホッとひと息つけちゃいますね。

　フォーを待つ間は、じっと空間に身を委ねるんです。ワッとにぎやかな壁を眺めたり、ベトナムビールを片手におしゃべりする声に耳を傾けたり。元気がもらえて、この時間もまためちゃくちゃ楽しい。

　ベトナム料理ですが、私にとっては留学したドイツにリンクする味。語学学校の近くに、ベトナムレストランがあって。当時はお世話になりました。楽しくもあり、タフでもあった留学生活を思い出します。あのとき頑張ったな、今関わっている舞台も頑張ろうと、初心に帰るお料理ですね。

　◆東京都中野区中野５の５３の１（☎０３・５９４２・４５３２）。昼８５０円、夜８８０円。［前］１１時半～［後］２時半、５時半～１０時（ラストオーダーは９時）。不定休。

　　いくた・みゆき　演出家。大阪府出身。演出を手掛けた、孤島が舞台の「建築家とアッシリア皇帝」（１１月２１日～１２月１１日、岡本健一、成河出演）が東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演予定。