読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

佐賀県立美術館

手に指に 見せる美のかたち

「ぬいとり」 1914年 72.7×42.4㌢ 油彩・カンバス 佐賀県立美術館蔵

 佐賀出身の洋画家・岡田三郎助(1869~1939)の画業と人物像を紹介するため、1983年の開館以来、研究や展示に取り組んできました。今では作品と関係資料を約200点所蔵し、常設展示室「OKADA―ROOM」や東京・恵比寿から移築したアトリエで、岡田の功績を広く伝えています。

 岡田は、明治~昭和初期の日本近代洋画壇で活躍し、近代日本における美の表現や考え方に大きな影響を与えた一人です。色彩表現の美しさに加え、上品で優美な女性像を得意とし、「美人画の岡田」「女性像の岡田」と称されました。
 特有の優美な雰囲気は、極めて意識的に作られています。それがよく分かるのが手や指先の表現です。指のそろえ方や手を組んだ時の形など、上品かつ美しく見えるかたちを追求していたことが、作品や下絵から見て取れます。
 「ぬいとり」は、妻の八千代がアトリエの応接室で針仕事をしている場面を描いた作品です。一見、ごく自然な姿に見えますが、実はこの体勢、実際にやってみるとなかなか難しいのです。
 針と糸を引っ張るような手の形、そろえた指、手の角度、わずかにひねった肩や体など、どうすればより美しく見えるのか、最も美しい姿態はどういったものか、理想的な「型」を模索していたと考えられます。
 構図の工夫が見えてくる作品が「花野」です。人物をあえて斜めに配置しています。女性は体をひねり、顔は横向きに。わずかに左の肩が見え、左手は胸元、右手も体の上に置いています。
 デッサンの上では正確でないものの、目の前の形態を正確に描き写すのではなく、岡田が追求する「見せたい美しさ」を優先し、表現したのだと思います。また、首筋から肩のあたりに描き直した跡が見つかっています。おそらく、このなだらかで美しい曲線にこだわり、試行錯誤したのではないでしょうか。

聞き手・三品智子

 《佐賀県立美術館》佐賀市城内1の15の23(☎0952・24・3947)。[前]9時半~[後]6時。原則[月](祝日の場合は翌日)、年末年始休み。2点が展示される「うつくしきひとのかたち 指先の優美」は2月24日まで。

佐賀県立美術館 https://saga-museum.jp/museum/

 

岩永亜季さん

学芸員 岩永亜季さん

福岡県出身。九州大大学院で美術史、特に英国19世紀美術を専攻。岡田三郎助ら日本近代洋画の研究、紹介に携わる。

(2024年12月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 国立極地研究所 南極・北極科学館 初の女性隊長で話題の南極観測隊。これまでの観測の歴史と成果にふれる展示にワクワク。

  • 文化学園服飾博物館 12月5日から始まる「あつまれ! どうぶつの模様」展では、動物をモチーフにした衣装や装飾品、タペストリー、帛紗などの染織品が一堂に会します。同じ動物でも地域によって表現方法や意味合いが違うので、共通点や相違点を探りながら見るのがおすすめです。

  • 松岡美術館 陶磁器が放つ美しいつやと色彩。これは、うわぐすりとも呼ばれる釉薬(ゆうやく)がもたらすものです。

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

新着コラム