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私のイチオシコレクション

国立極地研究所 南極・北極科学館

雪上車 5200キロ走破の「機械遺産」

雪上車「KD604」 小松製作所(1967)

 南極・北極の調査研究の中核を担う国立極地研究所(東京都立川市)の成果を展示し、情報発信する施設として2010年に開館しました。南極観測隊が持ち帰った氷を気軽に触れられる状態で展示していて、全国でも珍しいと思います。

 人気の展示物の一つに、日本初の南極点到達に貢献した「雪上車」があります。第9次観測隊の極点到達プロジェクトで使われた「KD604」です。重さが約7・5㌧あり、1㌔走るのに4㍑の燃料が必要でした。
 車内が暖まるよう、外装は太陽光を吸収しやすい黒塗りに。通信機や観測機器のほか、簡易ベッドやコンロも備えられ、数カ月の長旅をしながら研究・観測ができる空間になっています。
 一行は、東オングル島にある昭和基地の対岸に位置する南極氷床上の車両拠点を1968年9月28日に発ち、12月19日に南極点到達を果たしました。その後約2カ月かけて昭和基地に帰還し、往復約5200㌔を走破したのです。この雪上車は2014年に日本機械学会の「機械遺産」に認定されました。
 南極観測隊といえば、映画になった「タロ・ジロ」といった犬の活躍が有名ですが、ちょっと毛色の変わった動物もいました。
 1956年、第1次隊の出発間際に「珍しいし縁起がいいから」と急きょ乗船したのが、オスの三毛猫「たけし」です。名前は永田武隊長にあやかったもの。隊員の中には猫の悪さにかこつけて「コラ、たけし」と怒鳴る人もいたとか。1年越冬したたけしは帰国後、隊員に引き取られましたが、1週間で姿を消してしまいました。南極への動物の持ち込みが禁止される前の貴重なエピソードです。
 今、たけしをモデルにしたフェルト人形が来館者を出迎えています。山梨県立博物館から譲りうけたもので、2019年、第61次隊員だった私と一緒にひと夏を南極で過ごし、たけしと同じく無事に帰還しました。

(聞き手・鈴木麻純)

 

 《国立極地研究所 南極・北極科学館》東京都立川市緑町10の3(☎042・512・0910)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。日、月曜、祝日、第3火曜、28日~1月6日休み。雪上車とたけしのフェルト人形は常設展示。企画展「変わりゆく永久凍土の世界」を開催中(~1月18日)。

国立極地研究所 南極・北極科学館 https://www.nipr.ac.jp/science-museum/  

 

国立極地研究所 広報室室長 熊谷宏靖さん

国立極地研究所 広報室室長 熊谷宏靖さん

南極行きをちらつかされて2000年から国立極地研究所に勤務、23年から現職。09年、16年、19年の南極観測隊に参加。

(2024年12月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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