5日から始まる「あつまれ! どうぶつの模様」展では、動物をモチーフにした衣装や装飾品、タペストリー、帛紗などの染織品が一堂に会します。同じ動物でも地域によって表現方法や意味合いが違うので、共通点や相違点を探りながら見るのがおすすめです。
江戸時代の薄紅色の能装束は、裾周りの刺繡に注目してください。萩の葉の陰に、バッタやコオロギ、セミが潜んでいます。虫は日本人にとって、物語や和歌の題材にしたり鳴き声を楽しんだりと、めでる対象でもありました。現代ではそんな余裕はないかもしれません。いったん立ち止まり、心のゆとりを感じてもらえたらうれしいです。
描かれた虫や植物からは、秋が感じられます。秋の模様は、切なく物悲しいストーリーに合うことから、能装束に多く使われます。繻子織りに刺繡と箔で装飾したこの装束は縫箔と呼ばれ、主に女役が腰に巻いて着用するものです。
虫の細部や葉のグラデーションが、精緻な刺繡によって丁寧に表現されていて、自然に対する愛情が感じられます。淡い色合いで見つけにくいかもしれませんが、草むらで虫を探す疑似体験ができるのではないでしょうか。
魚をモチーフにした首飾りは、アフガニスタンの遊牧民の女性が身につけていたものです。水が乏しい乾燥地帯なので、水に生息する魚は貴重な存在であり、縁起が良いとされています。たくさん卵を産むことから、子孫繁栄を願う意味も込められています。コインを装身具のパーツにするのは西アジアを中心に広範囲で見られ、魔よけにもなります。
ずらりと並んだ魚は、両サイドに目が彫られています。上から見ているのでしょうか。尾ひれも二重になっています。日本人がイメージする魚の描き方と異なり不思議に見えますが、地域的な表現方法の違いからこのような形になったのでしょう。
(聞き手・片山知愛)
文化学園服飾博物館 東京都渋谷区代々木3の22の7新宿文化クイントビル1階(☎03・3299・2387)。(前)10時~(後)4時半、12月20日と2月14日は7時まで(入館は30分前まで)。500円。「あつまれ! どうぶつの模様」展は3月5日まで。原則、日・祝と27日~1月5日休み。
学芸員 金井光代 かない・みつよ 共立女子大学家政学部被服学科を卒業後、企業勤務を経て大学院で染織文化史を学ぶ。2018年から現職。専門は日本服飾。 |