北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。その中にある当館は、プロレタリア作家・小林多喜二も働いていた旧北海道拓殖銀行小樽支店の建物で、主に明治から昭和初期の作品を収蔵しています。
中でもぜひ目を向けていただきたいのが、「芝山細工」の品々です。
芝山細工は江戸時代から続く伝統工芸で、漆工品などに絵柄の形のくぼみを開け、貝やサンゴ、象牙などをはめこむ技法です。
透かし彫りも豪華な「芝山細工金地花鳥文飾棚(きんじかちょうもんかざりだな)」は、明治初期に輸出された品と考えられています。
扉ごとにデザインが違っていて、菊などの花々が芝山細工で施されています。左の中央あたりに描かれた鳥には、実際の羽の色みや厚みに近い貝がはめられています。自然物にしかない模様や光沢などの特徴をうまく造形に採り入れていて、一点物ならではの魅力があります。
当時の芝山細工製品は、西洋のジャポニスム人気を受け、主に輸出向けに作られました。海外から戻った漆工品は乾燥でひび割れていることが多いのですが、この作品は100年以上経っているのにとても状態が良く、珍しいです。
横山大観や高村光雲の作品など、当館の他の収蔵品に比べたら知名度は低いかもしれませんが、美しい貝のきらめきや手の込んだ細工に圧倒されます。
「芝山蒔絵花鳥人物図長方入隅脚付飾盆(まきえかちょうじんぶつずちょうほういりすみあしつきかざりぼん)」は、金蒔絵の表面に、お花見の情景が芝山細工で描かれています。踊っていたり、鬼ごっこのような遊びをしていたり。庶民的でユーモラスですよね。同時代に輸出されていた工芸品は、武者絵や美人画など、格式張った絵柄も多かった中で、「どうしてこの場面を描いたのだろう」といつも思います。水流の部分は漆を塗り重ねて厚みに差を持たせていて、蒔絵の技が生きています。
(聞き手・斉藤梨佳)
《似鳥美術館》北海道小樽市色内1の3の1(☎0134・31・1033)。運営は公益財団法人似鳥文化財団。5~10月は【前】9時半~【後】5時(原則第4【水】休み)、11~4月は【前】10時~【後】5時、原則【水】休み。年末年始休み(通年入館は30分前まで)。1200円。
学芸員・宮永郁恵さん みやなが・いくえ 東京芸術大学大学院修士課程修了。瀬戸市美術館、名古屋ボストン美術館を経て2023年から現職。 |