読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

太陽の森 ディマシオ美術館

生死も愛も 計算された無限世界

1997年 9×27㍍ 油彩、キャンバス=太陽の森 ディマシオ美術館提供

 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

 ディマシオは1938年アルジェリア生まれ。一度教職につくも、70年代後半以降は絵画に専念しています。作品には共通した世界観があり、彼が1万年後の未来を2万年先から振り返るようなイメージだといいます。タイトルがないのも大きな特徴です。

 小学校を改装した美術館では、私が収集した200点以上の作品を常設で約100点展示しています。彼との出会いは約40年前。仕事の息抜きに訪れたパリのギャラリーで、当時画家としてデビューしたての彼の絵にひかれ、購入したことからお付き合いが始まりました。

 30年前、彼に「自身の集大成となる作品を作ってくれ」と頼みました。しかしそこから3年間音信不通に。やっと連絡が来て見にいくと、この大きな絵が完成していたんです。

 生と死や愛と憎しみといったアンチテーゼがちりばめられています。中央上のブラックホールや左右端の顔、体は半分しか描かれていません。展示の条件は鏡を置くこと。初めから効果を計算して制作したのでしょう。

 鏡は絵を囲むように置いてあります。窓から差し込む自然光は、天気や時間によって作品の表情を変化させます。鏡面や光の入りなど全てを含めて一つの作品とし、永遠に続く無限の世界を表現しています。

 「WHEN THE SEA KISSED THE SKY」は、ディマシオの娘をモデルに描かれた作品です。娘が彼の作品を見て感じたことを書き表した詩の題名が、そのままタイトルとなっています。2000年以前の作品は色数が抑えられていましたが、年齢を経て私生活も変化したことで、作風も明るく、カラフルな色づかいになってきました。

(聞き手・中山幸穂)


 《太陽の森 ディマシオ美術館》 北海道新冠町太陽204の5(☎0146・45・3312)。午前10時~午後4時半。1700円。(月)(火)(水)((祝)を除く)休み。12月16日(月)以降冬季休館。

◆太陽の森 ディマシオ美術館:https://dimaccio-museum.jp/

 

たにもと・いさお

館長 谷本勲さん

たにもと・いさお 1940年生まれ大阪出身。83年から株式会社ミタカ会長。2010年から美術館理事長も兼務。

(2024年11月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

  • 奈良県立万葉文化館 飛鳥時代から奈良時代にかけて詠まれた約4500首の歌を収録した、日本最古の歌集「万葉集」。

新着コラム