写真家・石元泰博(1921~2012)は農業移民の子としてアメリカ・サンフランシスコで生まれ、3歳から18歳まで両親の郷里の高知県で暮らしました。農業学校卒業後、単身渡米。太平洋戦争中に日系人収容所で写真技術の基礎を身につけ、戦後はドイツの造形学校バウハウスの流れをくむシカゴのインスティテュート・オブ・デザインでデザインや写真技法を学びました。
「桂離宮 新御殿東面と芝庭」は、代表作「桂離宮シリーズ」中の1点。開催中のコレクション・テーマ展「写真の冒険 シカゴの写真家たちを中心に」で紹介しています。
1953年、14年ぶりに来日した石元は、ニューヨーク近代美術館が企画する日本の建築展のために案内役を務め、京都・桂離宮の部分的な撮影を依頼されました。石元は初めて訪れた離宮に面白さを感じて、翌年も京都に1カ月滞在して撮影しました。
建物全体ではなく一部の柱や畳を切り取り、デザイン的にとらえているところに新しさがあるのではないでしょうか。この写真で60年に建築家の丹下健三、ワルター・グロピウスと一緒に桂離宮の本を出しています。
一時米国に戻った石元ですが再来日し、大学などで教えながら40代以降は日本に定住することになりました。高知県は作品などの一括寄贈を受け、プリント3万4753枚、フィルム約15万枚、機材や資料、家具などを収蔵しています。2013年に「石元泰博フォトセンター」を開設し、常設展示室で年6~8回展示替えをしています。
「薩摩切子」は常設展示室で開催中のコレクション展「きらめき」からの1枚です。ガラスや陶器などを写した作品が並び、依頼を受けて撮影した写真にも切り取り方、視線、影の付け方などを工夫していることが分かります。
(聞き手・鈴木芳美)
《高知県立美術館》高知市高須353の2(☎088・866・8000)。午前9時~午後5時(入場は30分前まで)。「桂離宮 新御殿東面と芝庭」は7月3日までの「写真の冒険」で、「薩摩切子」は6月16日までの「きらめき」で展示中。常設展370円。原則無休。
高知県立美術館チーフ(学芸担当)・石元泰博フォトセンター長代理 天野圭悟学芸員 さん あまの・けいご 1973年川崎市出身、法政大学大学院人文科学研究科修了。2018年から現職。高知県立美術館の石元泰博コレクションを調査研究。 |