東京都世田谷区にある当館は、東宝の撮影所が区内にある縁もあって映画に関連する資料も多く所蔵しています。中でも映画衣裳デザイナーとして活躍した柳生悦子(1929~2020)のデザイン画は、生前ご本人から寄贈を受け約3千点にも及びます。
「君も出世ができる」は観光会社が舞台のミュージカル映画で、写真上は雪村いづみ演じる片岡陽子が初登場するシーンで着た衣裳のデザイン画です。
陽子は米国帰りの社長令嬢。このシーンではキレの良いダンスと歌声で群舞をリードします。デザイン画のスカート部分には型紙に起こす人に向けて「踊りの動きがありますから開きは高めにして下さい」「襞(ひだ)は深めに」と書き添えてあります。
米国流を押しつけようとする高慢な陽子ですが、実は純情な一面もあり、そうした面が明らかになるにつれて衣裳も変化します。素敵な衣裳を着せるだけでなく、台本を読み込み、登場人物の性格や環境、シーンの設定を理解した上で衣裳を作ることが大切だと柳生は考えていました。衣裳がヒロインの輝きを包み込み、スクリーンに永久に記憶されていくことに感動を覚えます。
東京芸大図案科在学中から舞台・映画衣裳デザインを志した柳生は時代劇も数多く手がけました。その代表作の一つ「敦煌」は11世紀の中国が舞台。文献資料が乏しいため、現地を訪れ敦煌莫高窟の壁画などを元にデザインしたといいます。
写真下は、渡瀬恒彦演じる西夏の初代皇帝・李元昊(り・げん・こう)の衣裳です。李元昊は武勇に優れただけでなく西夏文字を作らせるなど知性もあった人物で、そのカリスマ性がよく表れています。300点近くある「敦煌」のデザイン画からは、ひとつの時代、ひとつの地域を衣裳で表現しようとする意志が伝わってきます。
(聞き手・斉藤梨佳)
《世田谷文学館》東京都世田谷区南烏山1の10の10(電話03・5374・9111)。[前]10時~[後]6時(入館は30分前まで)。2点は3月31日まで「衣裳は語る―映画衣裳デザイナー・柳生悦子の仕事」で展示中。原則[月]休み。
世田谷文学館
https://www.setabun.or.jp/
「衣裳は語る―映画衣裳デザイナー・柳生悦子の仕事」
https://www.setabun.or.jp/collection_exhi/20231007_collection.html
学芸員・瀬川ゆきさん せがわ・ゆき 横浜市立大学文理学部卒業。神奈川近代文学館勤務を経て2003年から現職。 |