ランプを中心に、アールヌーボーの花瓶や香水瓶、茶器などのガラス工芸品を所蔵する当館は、1990年にオープンしました。
眼鏡・時計・宝飾品小売りの「一誠堂」が運営し、先代の社長が昭和30年代以降、商用でたびたび訪れたパリで集めた約50点を常設展示しています。
19世紀末から20世紀初頭に流行したアールヌーボーは、それまでの欧州の表現にはなかった流れるような曲線を用いた形式。
「蝸牛(かたつむり)装飾葡萄(ぶどう)文ランプ」はアールヌーボーの代表的な作家、ドーム兄弟により1900年ごろに作られた作品です。
台座の中ほどと下部に突起のように見えるのがカタツムリで、アップリケという技法で溶着されています。
ブドウの房や葉は、土台となるガラスに色ガラスの粉を溶かしつけて表現。雨上がりの日差しのもと、本物のカタツムリがはっているようです。
立体的なカタツムリも全体の色合いも主張しすぎず、光の広がりもやわらかで寛(くつろ)いだ雰囲気を演出するランプです。
「石楠花(しゃくなげ)文ランプ」は、同じくアールヌーボーの立役者、エミール・ガレによるもの。笠の部分のサインから、18~31年の工房作とみられます。
花や葉のレリーフを施した金型に、3層の色ガラスを吹き込んで成型するスフレ技法で作られています。
オパールガラスを用いた地の黄色と、花の薄紫色のコントラストが目を引きますね。
シャクナゲの構図も大胆で、「蝸牛装飾葡萄文ランプ」とは対照的に、華やかな存在感を漂わせる一品です。
(聞き手・小森風美)
《一誠堂美術館》 東京都目黒区自由が丘1の25の9の地下1階(問い合わせは03・3718・7183)。
午前10時~午後6時。500円。
(水)休み。当面の間、臨時休館。
美術館責任者 川邊京子 かわべ・きょうこ 一誠堂3代目社長の妻。先代社長の義父から館の運営を任され、2010年から現職。常設展管理のほか、広報PRを担当。 |