18世紀は、英国美術の転換の時代。当時、同国ではイタリアなど海外の芸術への憧れが強く、国内で描かれるものは肖像や屋敷と庭の風景など貴族が注文する実用的なものでした。そんな中、1768年に王立美術院(ロイヤル・アカデミー)が設立され、自国の絵画を芸術として高めようとします。当館では同院設立以後の絵画を中心に版画、工芸など英国人作家の約790点を所蔵しています。
同院初代院長のジョシュア・レイノルズ(1723~92)は数年先まで注文が埋まるほど人気の肖像画家でした。その絶頂期の77年に手がけた油彩「エグリントン伯爵夫人、ジェーンの肖像」は二十歳の夫人を、音楽の守護聖人セシリアがハープを弾いている姿に見立て、イタリア・ルネサンスの歴史画のスタイルを取り込んでいます。肖像画の美術的地位を引き上げたいレイノルズの戦略と、威厳のある演出が施された肖像画で権威をアピールしたい貴族の気持ちが合い、双方にメリットがあったと考えられています。
そして、英国美術を大きく盛り上げたのが国民的画家のウィリアム・ターナー(1775~1851)。「コニストンの荒地」(1797年ごろ)は湖水地方を訪れて描いた初期の水彩です。ゴツゴツした岩や曲がりくねった木などは、廃虚や不規則な自然を美しいと感じる「ピクチャレスク」という同国でおこった新しい美意識の表れ。2点とも、背後の曇り空や靄など英国らしい空模様が表現されていますね。
(聞き手・井上優子)
《郡山市立美術館》 福島県郡山市安原町大谷地130の2(問い合わせは024・956・2200)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。2作品は来年1月31日まで展示。200円。原則(月)休み。
主任学芸員 富岡進一 とみおか・しんいち 2005年から同館勤務。専門はイギリス美術、ターナー。共著に「ランドスケープとモダニティ」(ありな書房)など。 |