豊かな色彩と奔放な線による独特な作品で知られるスイス出身の画家パウル・クレー(1879~1940)。自由な描き方をしているように見えますが、実はどのように画面を作り上げていくかを徹底的に考え抜いた人でした。
ドイツ・ミュンヘンで画家として出発し、第1次世界大戦に従軍後、21年からワイマールの造形学校バウハウスで教鞭を執ります。この時期に多くの芸術家と交流したり、講義をしたりする中で、理論を深め、作品にも反映させていくのです。当館は、1900~30年代のクレーの作品29点を所蔵しており、その中からバウハウス時代の2点を紹介します。
「橋の傍らの三軒の家」は、クレーの色彩理論がよく表れた作品。クレーは並列する色同士の間に運動が生じると考えていました。例えば青から、補色であるダイダイには「加熱」、その逆は「冷却」というふうに。グラデーションを用いた作品も描くなど、色彩はクレーにとって最も大きなテーマでした。本作は、人のいない静謐な風景を描いていますが、色の移り変わりが、時間の流れ、物語のようなにぎやかさを感じさせます。
「Ph博士の診察室装置」は、力学的な表現で絵に緊張感を持たせています。モビール状のイメージを通じて、平衡感覚を表現したのかもしれません。本作は、油絵の具を塗った紙の上に素描を置き、なぞって別の紙に転写したものに、水彩絵の具で着色して制作。クレー独特の技法で、自らの線の表現をもう一段階複雑に仕立てたかったのでしょう。
(聞き手・伊藤めぐみ)
《宮城県美術館》 仙台市青葉区川内元支倉34の1(問い合わせは022・221・2111)。午前9時半~午後5時。2点は「令和元年度第Ⅲ期コレクション展示」(12月15日まで)で。300円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。
研究員 小檜山祐幹 こびやま・ゆうき 専門は西洋美術。2010年から現職。常設展の企画を担当、特別展「クレーとカンディンスキーの時代」なども手がける。 |