アジアの国の多くは、19世紀以降に西洋美術が流入し、新しい表現が登場したり、伝統を見直したりする流れが生まれました。しかしアジアといえば古美術の印象が強く、近現代は注目されてきませんでした。美術史が研究されていない国、戦争で作品が失われた国もあります。
当館はそうしたアジア近現代美術に着目しています。1999年、福岡市美術館の所蔵品を母体に開館し、現在は23カ国・地域の約3千点を収蔵。絵画や彫刻のほか、地域特有の刺繍、自転車タクシーの装飾など豊かな視覚文化は、各国の歴史や宗教、社会状況を色濃く反映しています。
70年代、社会主義体制下のモンゴルで制作された「幸福」は異色作。もともとチベット仏教の影響が強く、布地を用いた仏画が多く見られますが、この時代は国が仏教を禁止しました。作品には、仏が発する光を表す光背の前に、労働者の姿が。仏教美術と社会主義の取り合わせは、この時代のモンゴルにしか生まれないユニークな表現といえます。
当時、美術家たちはみな組合に属し、国や組合が優れた作品を買い取るシステムだったそうです。こうした制約のある環境から生まれた、斬新な表現が魅力的です。
当館は、アジアの作家の滞在制作事業も。研究者も合わせて100人超を招聘。香港の作家による「店を見る」は福岡市の商店街で撮影。市民と共に生み出す作品も、この地ならではです。
(聞き手・木谷恵吏)
《福岡アジア美術館》 福岡市博多区下川端町3の1(問い合わせは092・263・1100)。午前9時半~午後7時半((金)(土)は8時まで)。2点は11月26日までの「アジア美術、100年の旅」で((日)~(木)の観覧は6時まで)。千円。原則(水)休み。
学芸員 山木裕子 やまき・ゆうこ 1998年の同館開設準備室から勤務。2002年、「モンゴル近代絵画展」に関わって以降、仏教美術の現代的展開を研究。 |