東大・安田講堂の壁画で知られる洋画家小杉放菴(1881~1964)は、渡欧をきっかけに日本画に傾倒。軽妙洒脱な画風や、戦後は山間の別荘に移住したことから「脱俗の画家」とも呼ばれました。出身地の栃木県日光市に97年開館した当館は、写生画や書などを含め放菴作品を約1500点所蔵。その中から、中国の伝説に登場する仙人や、山で過ごす自身の姿を描いた2点を紹介します。
13年にヨーロッパ各地を遊学した放菴は、パリで文人画家・池大雅(1723~76)の「十便図」の複製を見て感動。神官で国学者の父のもとで培ってきた中国古典の素養に立脚し、東洋的画題に取り組むようになります。4年後に描いた「煉丹」は、仙人が不老不死の妙薬を作る術を題材にした日本画。上部の木の葉の、筆による細やかな点々は、池大雅も用いた「米点」と呼ばれる表現法。水面の鮮やかな青色は、沖縄旅行の影響と考えられます。仙人の顔立ちは彫りが深く、ソクラテスのような古代西洋人を想起させ、洋画から日本画へ移っていく過渡期の葛藤が見えます。
32年には新潟・妙高高原に別荘を建築。放菴は庭の巨石に腰掛け、妙高山を眺めることを好みました。33年ごろの「白雲幽石図」は、唐の僧・寒山の詩が題材。空に浮かぶ白雲に見立てた石に乗る自身を描きました。特別にすかれた麻紙に、墨のにじみだけで石の量感を表現。自然の中に身を置き、仙境を見るようなまなざしを感じます。
(聞き手・上江洲仁美)
《小杉放菴記念日光美術館》 栃木県日光市山内2388の3(問い合わせは0288・50・1200)。午前9時半~午後5時。730円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。2点は11月4日まで展示。
学芸員 清水友美 しみず・ともみ 1990年生まれ。専門は日本近代美術史。2017年から現職。企画展「木版画で旅するにっぽんの風景」などを手がける。 |