青森県出身の版画家・棟方志功(1903~75)。自身が生み出す版画を「板画」、肉筆画を「倭画(やまとが)」と呼び、他にも油絵や書を手がけました。当館は、これら768作品、2023点を所蔵。季節ごとに年4回行う展示替えで、多彩な棟方の作品を紹介しています。
幼い頃から弱視だった棟方は、「心の中の美を描く」と語っています。見たものをそのまま描くのではなく、自分が良いと思ったものをスケッチして記憶し、記憶をもとに作品を描いたのです。好んだモチーフは繰り返し取り上げました。
倭画「神説御蓬莱(ほうらい)之図」も何枚か描いたうちの一枚。中国の神仙思想で、仙人が住むといわれる伝説の「蓬莱山」を描いています。棟方が還暦の年の七夕に作られました。死後の世界の理想郷を表したのでしょう。鶴や亀、龍など縁起の良いものをちりばめています。月にウサギ、太陽に八咫烏(やたがらす)を入れるのも棟方の特徴。一気に仕上げた、筆の勢いも見られます。
板画「弁財天妃の柵」は、女人を描いた棟方の代表作。「柵」は四国巡礼者が寺に納める札と同じ意味で、一生かけて願いを込め、板画を納めていくという意味で使いました。紙の裏から色を差す「裏彩色(うらざいしき)」で彩色。墨が潰れている部分は、表から色を重ねています。同作が制作された晩年は弱視が進み、作品の色もかなり濃くなっていました。
(聞き手・渋谷唯子)
《棟方志功記念館》 青森市松原2の1の2(問い合わせは017・777・4567)。午前9時~午後5時(11月~3月は9時半から)。原則(祝)を除く(月)休み。2点は9月23日まで展示。500円。
学芸員 宮野春香 みやの・はるか 2016年より同館勤務。棟方志功と妻チヤをテーマにした秋の展示「志功とチヤ」(9月25日~12月8日)を企画。 |