日米双方の血をひく彫刻家、イサム・ノグチ(1904~88)は1969年、高松市にアトリエを構えました。友人だった香川県出身の画家、猪熊弦一郎に誘われたことや、石切り場が近くものづくりの活気があったことが決め手でした。そのアトリエを美術館にした当館のコンセプトは、本人が並べた石の彫刻など150点余りを当時のまま見てもらうことです。
黒御影石を使った代表作「エナジー・ヴォイド」は、青みがかった神々しい光沢があり、全体からエネルギーを放っています。当初は外に置かれていましたが、この作品を収蔵するため酒蔵を移築。背景となる土壁は、この方がおもしろいと仕上げ途中のままです。配置にもこだわり、見る位置を変えると三角形に見えることも。第2次大戦中、日系人収容所で過ごすなど時局に翻弄されたノグチは、この作品で平和への願いを表しています。空間を持たせた環状の作品に、禅の思想で無を意味する円を重ね、思いを込めたのではないでしょうか。
東北の玄武岩を使った通称「コンドルの卵」は、写真家の弟ミチオらとペルーのマチュピチュを旅した後の作品です。自然の岩肌を残しつつ、中央の結合部できっちりと形を合わせ、1点でバランスを取っています。クスノキや蔵、周囲の作品との距離感も絶妙です。
ノグチは「土は正直だ」と野外作業を好み、風が通り抜けるようにと作品の配置を細かく指示しました。この地の自然に学び、長い時をかけて生成された石で、時空の流れを表現したのです。
(聞き手・山田愛)
《イサム・ノグチ庭園美術館》 高松市牟礼町牟礼3519(問い合わせは087・870・1500)。見学希望日の10日前までに往復はがきで要申し込み。(火)(木)(土)開館。2000円(税別)。
学芸員 益田美保 ますだ・みほこ 専門は現代彫刻。1999年の開館時から現職。生前のノグチと交流があり、88年の没後より美術館立ち上げに携わる。 |