秋田蘭画とは、江戸中期に秋田藩士が西洋絵画の技法を取り入れて描いた絵画のことです。極端なほどの遠近法や立体感を表す陰影法、写実表現などが特徴です。元々点数が少ない秋田蘭画ですが、当館では13点を所蔵し、どの時期でも1点は見られるように展示しています。
秋田蘭画は、若き藩士・小田野直武(1749~80)が始めました。幼少より画才があった直武は、江戸へ出府して学者の平賀源内(1728~79)のもと、西洋絵画や中国系の南蘋派の美術を学び、東西の画法を混ぜた新たな絵画を生み出しました。帰郷した直武から藩主・佐竹義敦(曙山、1748~85)や数人の藩士が学び、蘭画熱が高まったと考えられています。
「岩に牡丹図」は、直武の初期の作品。手前の牡丹は、茎や葉に陰影が施され、花弁はグラデーションを使って柔らかな質感を表しています。遠景は西洋の銅版画を写したと思われ、外国風の建物が描かれています。当時の日本の花鳥画は、背景無しが主流でしたが、直武は奥行きのある空間に花鳥を表現しました。
「唐太宗花鳥山水図」は、三幅対という形式で、三つの掛け軸で一つの作品です。中央には唐の皇帝・太宗。衣服のシワやおなかは、とても立体的に描かれ、やはり空間が意識されています。
直武の死から5年後に曙山も没して、秋田蘭画は衰退に向かいます。その命脈は10~15年だったとされていますが、終息の時期や経緯など、今もって謎が秘められています。
(聞き手・町田あさ美)
《秋田県立近代美術館》 秋田県横手市赤坂富ケ沢62の46(問い合わせは0182・33・8855)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則無休。無料(特別展は有料)。「岩に牡丹図」は7月7日まで、「唐太宗花鳥山水図」は10日~8月23日展示。
学芸員 鈴木京 すずき・きょう 2013年より現職。専門は日本近世近代絵画。展覧会の企画運営とともに、秋田にゆかりのある作家の調査研究を行っている。 |