江戸時代前期の僧・円空(1632~95)は美濃国(現在の岐阜県羽島市)に生まれ、諸国を遊行しながら、生涯で12万体とも言われる数の木彫の仏像を作りました。同県・飛騨高山の千光寺内にある当館は、円空晩年の集大成といえる作品64体を所蔵しています。何度か飛騨を訪れ、当時の住職・舜乗と意気投合した円空が、この地で制作した仏像群です。
「両面宿儺」は、当寺を開き、菩薩としてまつられるようになった飛騨の豪族を彫ったもの。顔が二つ、手足を4本ずつ持ち、日本書紀では朝廷に刃向かう悪者として登場しますが、飛騨では、中央政権の収奪から村人たちを守る神とされています。本来は前後に顔があるのですが、円空は笑顔と憤怒の顔を横に二つ並べ、飛騨人の慈愛の心と怒りという二面性を表現しているようです。また持ち物を弓矢からまさかりに換えて、開拓者という意味合いを強めています。円空というと粗削りのイメージが強いですが、この像は直線と曲線を使って岩や火炎の細部まで丁寧に彫っています。
「賓頭盧」は、釈迦の弟子の一人で「おびんずるさん」と呼ばれる、なで仏。以前は本堂の前にあり、参拝者が治してほしい部分をなでて、祈っていました。その部分が磨かれ、光っています。
幼少期に長良川の水害で亡くした母の供養に仏像を彫り始めた円空。その仏像は、どれもほほ笑んでいるのが特徴です。痛みを抱え、底辺にいる人たちに寄り添った円空の慈愛の心が映し出されているようです。
(聞き手・石井久美子)
《円空仏寺宝館》 岐阜県高山市丹生川町下保1553(問い合わせは0577・78・1507)。火曜日休み。12月~3月は冬季閉館。高校生以上500円。2点は常設展示。
千光寺住職 大下大圓 おおした・だいえん 飛騨千光寺住職。1954年生まれ。12歳で千光寺に出家。高野山で修行後、スリランカへ留学する。仏教の現代化を目指し、瞑想(めいそう)研修を開催する。 |