長野県と新潟県の県境付近にある栄村小滝地区の希少なコシヒカリが詰まったおしゃれなワインボトルが、贈答品としてひそかな人気になっている。この「小滝米」の販売を手がけるのは東京・銀座の目抜き通りに店を構える子供服販売の「ギンザのサヱグサ」。東日本大震災翌日の長野県北部地震の被災から立ち上がった、わずか13世帯からなる同県栄村小滝地区と創業約150年の老舗が手を取り合っての挑戦だ。サヱグサ5代目社長の三枝亮(さえぐさりょう)さん(48)に聞いた。
(土田ゆかり)
――子供服の販売会社がなぜお米の販売をするのですか。
なぜ?と思われる方も多いかもしれませんが、ぼくの中では「子ども」というキーワードでつながっています。2012年に社長に就任してから、子供服屋として社会の役に立つようなことができないか考えてきました。その一つが、子どもたちが自然を体験できるキャンプの開催でした。その候補地探しで小滝地区を知りました。棚田が広がり、千曲川が流れ、民家が点在し、赤い屋根の小さな神社が立っている。日本の原風景である生き生きとした里山がありました。しかも、ニホンカモシカが目の前に出てくるような自然の深みもある。こんな場所で子どもに自然体験をして欲しいと思ったんです。そこで出会った小滝米に感動しました。芯がしっかりしている小粒のお米にうまみがぎゅっと凝縮されていて、冷めてもおいしいんです。
――販売に乗り出した経緯を教えてください。
震災からの復興、そして、自立した元気な里山を子どもたちの為に残すことを、お米作りの支援を通して実現したかったからです。これまで小滝米は、地元とその関係者だけでほぼ消費されてきたのですが、こんなにおいしいお米はもっと評価されるべきだと思いました。そこで、子供服を売るノウハウを生かして小滝米を「コタキホワイト」としてブランド化を図り、洋風のキッチンに置いても違和感がないデザインパッケージをつくって、贈答用に販路を求めました。日本人でお米をもらって嫌な人はまずいません。そして同時に、流通を地元にとどまらせていた一番の理由、取引価格を見直し、品質に見合った価格評価、いわばフェアトレードを実現させました。
――ワインボトルにお米をつめるアイデアはどこから。
お米は同じ苗と栽培方法でも、その年の気候の違いなどで味が変わって、ワインに似ています。そこでワインボトルのエチケット(ラベル)が思い浮かびました。エチケットには、品名だけでなく生産者の名前、作られた土地などの情報が凝縮しているんです。ワインを味わうようにお米を味わっていただきたいと思っています。また、遮光性に優れ、湿度変化を伝えにくく、空気に触れさせないワインボトルは米びつの役割もしっかり果たします。
――初年度の2014年は1000本を売り、1週間で完売でした。
企業向けのお歳暮用に販売しました。1本販売するごとに50円を小滝地区の復興支援のために寄付する取り組みも共感を得たのだと思います。今は、ボトル入りと袋入りをオンラインで販売するとともに、銀座にある長野県のアンテナショップや都内の大手生活雑貨店などに置かせていただいています。秋には、小滝米の新米を「コタキヌーボー」としても売り出します。
――今後については。
小滝地区の住民とサヱグサの社員の数が40人ほどで規模が同じ。だから、思いを共有しやすいと信じています。お米文化に新たな付加価値を与えるブランドづくりが里山、小滝の復興と継承の一助になり、お米離れが進んでいる日本人の食文化の見直し、美味しい日本のお米を海外にもっと広めていくことに繋がれば、これほど素敵なことはありません。13世帯の小滝の方々と関係を深めながら、10~20年という長い目で取り組んでいきたい思います。
★2016年の新米を詰めた「コタキホワイト・ギフトボトル」 ※応募には朝日マリオン・コムの会員登録が必要です。以下の応募ページから会員登録を行って、ご応募ください。 →終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。 |
小滝地区とは 小滝地区は新潟県境に近い標高約300メートルの山あいにあり、3メートル以上の積雪もある豪雪地帯。サヱグサとともに米作りによる里山復興を目指す小滝地区の合同会社「小滝プラス」代表社員の樋口正幸さん(57)は、雪解け水を使うことでおいしい米が作れると話す。水路は330年前に祖先が山奥からひき、今も住民たちが補修しながら使用している。小滝米は刈り取り前には肥料を与えないため、米粒が小さい。収穫量は減るが、肥料の残留成分を少なくすることでうまみが出るという。 5年前、地区存続の危機があった。2011年3月12日の長野県北部地震で水田の7割が壊滅的被害を受けた。「本当に真っ暗なトンネルの中にいた」と樋口さん。しかし、震災復旧のために地区を訪れたボランティアたちの「小滝米うまいよ」との声に、「ぴかりと小さな明かりが見えて足を踏み出す元気が出た」と振り返る。サヱグサとの連携など前向きな取り組みを始め、若手の農業後継者の数人が地区に戻ってきた。今は夢がある。「300年後の子孫にこの集落を残したい」。 |
◆ギンザのサヱグサ(東京都中央区銀座3の5の12)は、1869年創業。上質な子供服の小売業として、東京・銀座、大阪・梅田に店舗を構える。小滝米は、ギンザのサヱグサ子会社の「サヱグサ&グリーン」の「小滝米ショッピングサイト」から注文可。