ジブリパークが全面オープンした愛・地球博記念公園。パーク外にも映画から飛び出してきたような門がある。
ぴんと反った屋根に、つややかな緑色の瓦。べんがら塗りの赤色に彩られた塀。森を背にどっしりと構えた門は、まるで異世界への入り口のよう。
この門はもともと、名古屋市中村区の料亭「稲本」にあった。料亭は、大正~昭和期の遊郭にあった稲本楼の別館を引き継いで開業。市の都市景観重要建築物にも指定されていた。2009年に営業を終了し、その後、建物の解体が決まった。
「豪華絢爛で、大工たちの遊び心が随所に見られる建物。なくなってしまうのはもったいない」。解体前の料亭を見学した印象をこう振り返るのは、ジブリパーク内の木造建築を手がけた名古屋市の大工・中村武司さん(59)だ。
「ジブリ映画の世界観に似ている」とも感じた中村さんは、05年の愛・地球博で「サツキとメイの家」を建ててからつながりのあるスタジオジブリに相談。ジブリパークの整備に合わせ、料亭の門を愛・地球博記念公園内に移築する話が進んだ。
18年、料亭の建物は解体。門の部材をスタジオジブリが譲り受け、公園を管理する愛知県に寄付した。
移築にあたり、門の復元は中村さんらが担った。矢羽根のような模様が刻まれた柱は、腐食していた根元部分を切り取り新しい木材と接合。耐震性を向上させるため、側面に取り付けた面格子に圧縮した木材片を差し込むなどの工夫も加えた。
「当時の大工仕事に今の技術を組み合わせ、この先も長く残るよう修理した」と中村さん。「大工技術はリレーのバトンのよう。建物の保存は、大工仕事を次の世代に伝える意味もある」。完成した門を見て、「宿題を提出できたなとホッとした」という。
「稲楼門」と新たな名がついた門は、ジブリの提案で「ランドマークになるように」(愛知県担当者)と、パークの「どんどこ森」へつながる散歩道の入り口に設置。門の奥では映画「千と千尋の神隠し」に登場する石人のオブジェが迎え、撮影スポットにもなっている。
(木谷恵吏、写真も)
DATA 用途:門 《最寄り駅》:愛・地球博記念公園 |
愛・地球博記念公園には稲楼門の他にも、ジブリパークのチケットなしで映画の世界観を楽しめる場所がある。「猫の城遊具」は映画「猫の恩返し」に登場する城がモチーフ。「魔女の谷のみえる展望台」は高台から「魔女の谷」を一望する。いずれも平日無料、土日などは有料。問い合わせは公園管理事務所(☎0561・64・1130)。