オフィスビルや飲食店が立ち並ぶ大阪・北新地。キラキラとたたずむUFOのような物体はなに?
ひときわ高いビルの裏に回ると、光る球体が周囲の風景を映し取りながら水に浮かんでいるように見えた。中をのぞくと、畳敷きの空間に厨子(ずし)や仏像、お供えや木魚が。
その正体は、堂島薬師堂。6世紀、聖徳太子が四天王寺を建てた時に建材を積んだ運搬船が難破し、洲(しま)だったこの辺りに漂着。その資材で建てたお堂だとされている。堂島という地名の由来ともいわれている。
現在の形になったのは、1999年。敷地を持つ毎日新聞大阪本社が、旧社屋をオフィスビルとして新築するのに伴って、建て替えられた。
木造だった古いお堂は、ミラーガラスが覆う直径7メートルの球状に。日建設計の佐藤教明さん(56)によれば、薬師瑠璃光如来との正式名称を持つ本尊にちなみ、古来、瑠璃と呼ばれたガラスを使った。
光を放つイメージを、360度を照らす電球に重ね、127枚の三角形のミラーガラスを組み合わせて球体にした。「宝石のようなお堂が、きらびやかな北新地や商業の街、堂島の象徴になればと思いました」
お堂が浮かぶ池に渡された橋は「参道」。正面にある合掌がモチーフのオブジェは、お堂を守る地域組織、奉賛会が寄付した。
奉賛会長の霞流(かすばた)喜久英さん(74)は「宇宙の何かみたいな見た目にびっくりしましたけど、大阪の人は新しいもん好きですし」。古いお堂で行われていた盆踊りを懐かしみつつ、今でも事あるごとに手を合わせると言う。「心の支えみたいなもんで、頼りにしてます」
かつてはお堂の裏にあった井戸で水を汲(く)み、本尊にお供えする習わしがあった。改築で井戸はなくなったが、2004年、この風習にちなんだ「お水汲み祭り」が始まった。
奉賛会、地元の飲食店や企業が堂島を盛り上げようと毎年節分に開催するこの祭りは、今やまちの新たな風物詩だ。
訪れたこの日、通りがかる何人もが、光り輝くお堂に手を合わせていった。
(山田愛、写真も)
DATA 設計:日建設計 《最寄り駅》:北新地 |
お堂の向かいにある緑のテントに青い扉の店は、カーサ・ラ・パボーニ(☎06・6345・7746)。画家の山下清や作家の遠藤周作、野坂昭如らも集った、洋画家の大石輝一が開いたサロンを、大姪の福井ひでのさんが受け継いだ。大石の絵を眺めながらフレンチにコーヒー、お酒も楽しめる。午前11時~午後2時(月曜休み)、6時~11時。土日休み。