自然が豊かな三方五湖。湖のほとりに広がる公園の中、芝生に覆われたあの小山が博物館?
国内有数の縄文遺跡、鳥浜貝塚に近い若狭三方縄文博物館。貝塚から出土した丸木舟や土器などを展示、勾玉(まが・たま)づくりや火おこしなども体験できる。
笠のようななだらかな斜面から、コンクリートの円筒がニョキニョキ。ユニークな外観の建物を設計した横内敏人さんがテーマにすえたのは、「生命の循環」だった。
自然にさらされ、自然の恵みに感謝しつつ、環境を害することなく生活を維持した縄文人。生み出した土器を動物や植物のモチーフで飾った縄文人。横内さんは各地の遺跡を訪れたり、研究者の話を聞いたりして縄文時代への理解を深め、太古の人々の世界観を建築で表現しようと考えたのだ。
地中にすっぽり収まったような建物は、大地が腹を膨らませ生命を育むイメージだ。突き抜ける円筒は、上へ上へと伸びる森の木。ただし装飾だけではなく、換気のための配管やエレベーターなど機能面の役割もある。
三方湖を望む2階の入り口から館内に入ると、大木のような柱が林立、天窓から光が差し込んで深い森にいるよう。階段を下りて1階の展示室へ進みながら「母なる大地に入っていく感覚を体験してもらいたい」。
耐火性への配慮から建物本体はコンクリート造りだが、型枠に杉の木を使い、木目の跡を生かした。「長い年月の間に木が石になった感じ」と横内さん。
「最近は若い女性の来館者が増えました」と話すのは、館の前主査・今井里美さん。「自然と共存する当時の暮らしぶりは、現代の理想に近いのかもしれません」
(伊東哉子、写真も)
DATA 設計:横内敏人建築設計事務所 《最寄り駅》 三方 |
隣接する福井県年縞(ねん・こう)博物館(電話0770・45・0456)では、水月湖の底から採取されたしま模様の泥の層「年縞」を展示。1年に1層(約0・7ミリ)が形成され、約45メートルの年縞には約7万年分の時が刻まれている。長く伸びた切り妻屋根が印象的な建物は内藤廣建築設計事務所によるもの。