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建モノがたり

SWEETS BANK(スイーツバンク)静岡県浜松市

浜松駅から車で約10分。国道沿いに突如現れる巨大なテーブルやイス。ここは巨人のリビングルーム?

巨大家具を目立たせるため、ガラス張りの建物はシンプルに
巨大家具を目立たせるため、ガラス張りの建物はシンプルに
巨大家具を目立たせるため、ガラス張りの建物はシンプルに 実際に使われているものと同じ色柄のバッグや包装紙も

 高さ約10㍍、2階建てビルがすっぽり入るテーブルが10台、イス5脚。おなじみの紙袋もすべて実物の13倍の大きさだ。もちろんカメラやスマホを向けずにはいられない。

 「うなぎパイ」でおなじみの菓子店「春華堂」の本社や店舗、地元信用金庫の支店が集まる複合施設。主に設計を担当した日建設計の田中裕大さん(34)は当初、巨大なテーブルとイスが描かれた同社の構想画を見て戸惑った。

 機能的で装飾は最小限に、効率よく建てられる建築がよい、という慣れ親しんだ価値観を根底から揺さぶるものだったからだ。しかし「お菓子をきっかけに一家だんらんのひとときを」という理念の表現を最優先。テーブルやイスも日よけ・雨よけの機能を持たせられると考え直した。

 巨大さの一方で完成度にもこだわっている。家具工房を訪ね、テーブルの脚の仕上げ、イスの背もたれや座面の形状など家具設計の勘どころを学んだ。「全方向からの見え方を徹底的に追求した」。耐久性を考慮して素材は鉄骨・コンクリートなど。木製と見まがう塗装はテーマパークのアトラクションを手がける専門業者に依頼した。

 見えない部分も手は抜いていない。屋上にあたるテーブルの天板に設置した空調の室外機はプレゼント用の箱のような囲いで隠した。卓上から垂れ下がるオリジナルの「春華堂新聞」には、スイーツバンク完成を報じるトップ記事に加え、4コマ漫画、広告まで印刷されている。

 「お客様も我々も満足できる、よりよいものを目指したかいがあった」と同社ブランド戦略室・高山慎吾さん(37)は話す。想定した20代~30代に加え、「映える」写真を撮りに訪れる10代が予想以上という。

(高田倫子、写真も)

 DATA

  設計:日建設計(塩田哲也、田中裕大)
  階数:地上2階
  用途:オフィス、店舗、カフェ、信用金庫支店など
  完成:2021年

 《最寄り駅》 浜松駅からバス


建モノがたり

 建物内には、限定パッケージのうなぎパイ詰め合わせ(15本入り、1782円)などが並ぶ「SHOP春華堂」、カフェ&ベーカリー「とらとふうせん」、ミーティングルーム「ツノがたつ」などが入る。午前9時半~午後6時(とらとふうせんは4時まで)。月、火休み(SHOP春華堂は営業、焼き菓子のみ販売)、お問い合わせは053・441・3340。

(2022年4月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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