いぶし銀のウロコをまとったようないくつもの三角屋根。木立に囲まれたこの建物は何?
東京都の「水がめ」を望む狭山湖畔霊園。木立の中に立つ礼拝堂を設計した中村拓志さんは「主役は自然。そっと森にたたずむ建築をイメージした」と話す。
大木の枝葉を邪魔しないような鋭角の屋根は、2本の柱を互いに立てかける合掌造りを応用した構造だ。カラマツ材の逆V形を並べた切り妻屋根を五つ、放射状に連結し、あらゆる方向からの力に耐える形状とした。
中心の木組みは許容誤差1㍉以内という難工事だった。「現場監督が、二度とつくれないと話していました」と霊園の横山毅所長は振り返る。
木に取り囲まれる場所だけに、樹液による屋根の汚れは課題だった。樹液が付いてもかえって「味」になり、なおかつ急勾配に適した素材を求め、軽く耐久性にすぐれたアルミ板ぶきに行き着いた。
18センチ×20センチのアルミ板を埼玉県川口市の鋳物工房に特注、複雑な形に合わせて現場で加工できるよう、強度を保つ範囲で最も薄い4ミリの厚さにした。施工時は2万枚以上の板にそれぞれ番号をつけ、設計図通りに重ねていった。
内部は、木組みの構造そのままの壁や柱が頭上へ向けて先細る。空間が狭くなることを当初心配したという中村さんだが、考えが変わった。「故人や先祖を敬い、頭を垂れ手を合わせる動作や気持ちが自然に生まれるのでは」
床にはったスレートの石目も祭壇へと集められ、さらに床面も祭壇に向けてごくわずか傾斜している。「訪れた人の気持ちに寄り添えれば、気づかれなくていいのです」
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:中村拓志&NAP建築設計事務所 《最寄り駅》 西武球場前 |
車で5分の日本料理店「四季料理 水石音季(せせらぎ)」(☎04・2008・2201)では、創作庭を眺めながら懐石料理を気軽に楽しめる。人気は刺身御膳(税込1980円)や牛ステーキ御膳(同1870円)。前11時~後2時。月、第1火休み。休み。