海沿いの日当たりの良い斜面に、風変わりな建築群が点在する。どうしてここが測候所?
相模湾を望む、ミカン畑を切り開いた丘の上。「江之浦測候所」は、ニューヨーク在住で写真、建築など多分野で活躍する現代美術作家・杉本博司さんの構想を20年がかりで実現した文化施設群だ。
「天空の下、人類が自身のいる場を確認したのがアートの原点」と考える杉本さん。原点に戻って未来への糸口を探ろうと、天空を支配する太陽の軌道を節目節目で体感できる「測候所」のアイデアが生まれた。
軸となるのが、赤茶色のコールテン鋼(耐候性鋼)でできた「冬至光遥拝隧道(とう・じ・こう・よう・はい・ずい・どう)」。全長70メートル、先端部は崖の上から海に突き出ている。冬至の日、海から昇る朝日は隧道を一直線に貫き、出口の向こうに設置した巨石を赤く照らす。1年にわずか数分だけ見られる光線の角度は何年もかけて確認した。
隧道の上を通って交差する「夏至光遥拝100メートルギャラリー」はもう一つの軸。大谷石とガラスに囲まれ、夏至の朝に太陽光がまっすぐ差し込む。こちらも先端は宙に突き出し、海を一望できる展望スペースになっている。
冬至、夏至があれば当然春分、秋分も。千利休作とされる茶室「待庵」をモデルとした「雨聴天」のにじり口から日の出の光が入るよう設計されている。
広い敷地に点在する建築や庭園などの見学は、「3時間でも足りないという方も多いです」とディレクターの稲益智恵子さんは話す。「日常生活では気にとめない部分に意識が向くのではないでしょうか」
ガラスや鉄のモダンな造形が目を引く一方で、時代や産地も様々な石も多く使われている。「5千年後に廃虚となっても美しく」が杉本さんの想定だ。
(伊東哉子、写真も)
DATA 構想:杉本博司 《最寄り駅》 根府川 |
入り口の手前にあるStone age Cafeの石の座席からは海が眺められ、入館前から測候所の雰囲気を感じることができる。敷地内で採れたかんきつ類を使用した飲み物のほか、コーヒー、焼き菓子などを販売。利用は来館者のみ、(土)(日)(祝)営業。