汗を拭いながら116段の階段を上った。ホームは地上約20メートル。見下ろせば、山に囲まれて水田が青々と輝く。
中国地方最長の河川、江(ごう)の川に沿って山あいを走る列車が、トンネルを出て再びトンネルに入るまでのわずか200メートルほど。谷をまたぐ橋の上に駅はある。
ホーム脇の待合室で「ファンクラブノート」を見つけた。千葉、富山、山口……。全国から訪れた人たちの言葉がつづられる。最初のページには「お元気で旅をしてくださいね。宇都井の老人」の文字。書いたのは近くに住む松島喜久恵さん(89)。ノートは19冊目になった。
三江線は昨夏の豪雨で寸断され、今年7月にようやく全線復旧した。「このまま廃線になるのかと不安でした」と三江線活性化協議会の原田康男さん(60)。
列車は朝と夕に上下4本ずつの8本のみ。集落には空き家が目立つ。住民の半数以上は高齢者で、駅を利用する人はほとんどいなくなった。自治会長の三上進さん(66)は「1975年に駅ができた時は、親子3代の念願がかなったと喜んだけえね」と寂しそうだ。
地元の邑南(おおなん)町役場は4年前、三上さんたちとともに、駅と周辺の田んぼをライトアップするイベントを始めた。昨年11月には約10万個のLEDが「天空の駅」を彩り、2日間で8千人が訪れた。「田舎だからできることもある」と三上さん。今年も11月29、30日の開催に向けて準備を進めている。
文 永井美帆/撮影 渡辺瑞男
JR三江線は江津駅(島根県江津市)と三次駅(広島県三次市)を結ぶ108.1キロ。 沿線には江の川をさかのぼって伝えられた多彩な神楽が舞い継がれている。それにちなみ、車内で神楽の上演などを行う神楽列車を運行(9、11、12月に計6本)。運行日の詳細や予約は、ひろでん中国新聞旅行(TEL082・222・7000)。 江津本町駅周辺は古くから江の川の舟運と日本海の海運で栄えた。駅からすぐの天領江津本町甍(いらか)街道には当時の回船問屋や蔵屋敷などが残る。問い合わせは江津市観光協会(0855・52・0534)。
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駅から車で約30分のイタリアンレストラン素材香房ajikura(TEL0855・95・2093)では、高原野菜や石見和牛などを使った本格的なコース料理(写真は一例、1888円から)やパスタが味わえる。米粉のフィナンシェ(200円)などデザートも人気。(水)休み。 |