土曜日の午後9時過ぎ、十数人の男女がホームの思い思いの場所にカメラの三脚を据え付けた。狙うのは日本製紙吉永工場。夜の工場にレンズを向け、シャッターを切り、次の構図を考える。「富士工場夜景倶楽部(くらぶ)」のメンバーたちだ。
倶楽部を立ち上げたのは富士市の鷲見(わしみ)隆秀さん(45)。幼いころから製紙工場を出たり入ったりする貨物列車を眺めて育った。旅行会社の役員を務めるかたわら、岳南電車を応援するため沿線情報をブログで発信してきた。
もう一歩、地域をもり立てるアイデアはないか。そう考えた時、見慣れた製紙工場の明かりが美しく見えた。富士山の豊富なわき水を生かし、明治から昭和初期にかけて多くの製紙会社が設立されて以来、富士市は「紙のまち」だ。現在も67工場がある。鷲見さんは2010年に倶楽部を結成。フェイスブックで工場夜景の美しさをアピールし始めた。
工場を真正面にとらえられる岳南原田駅は、倶楽部の大切な撮影ポイントの一つだ。「人の気配を感じる電車と、無機的な工場が同じフレームに写るところも魅力です」と鷲見さん。
岳南電車の全路線と駅、車両は先月、民間団体の「日本夜景遺産」に認定された。鉄道では初めてのことだ。「夜景」というキーワードで一つに結びついた電車と工場群を組み合わせて、新たな企画ができないか。空気が澄む秋に向けて、鷲見さんは考えている。
文 塩田麻衣子/撮影 浅川周三
岳南電車は静岡県富士市の吉原駅と岳南江尾駅を結ぶ10駅、9.2キロ。2012年3月まで製紙工場の貨物輸送も担っていた。貨物列車用のED501などの電気機関車や貨車が岳南富士岡駅前に留置されている。 岳南原田~比奈駅間は日本製紙吉永工場の敷地内をパイプラインに囲まれて走る。 8月9日(土)午後5時~9時、終着駅の赤ちょうちん。岳南江尾駅に焼き鳥やケバブなどの屋台が出る。問い合わせはフジパク(0545・34・4425)。23日(土)は、恒例のビール電車も(要予約)。問い合わせは岳南電車(53・5111)。
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富士がんもいっちは、富士地域の伝統食品、甘いがんもどきをはさんだサンドイッチ。駅から徒歩10分の金沢豆腐店(TEL0545・52・1640)では、がんもどきをトマトベースのソースに絡める(写真、2個450円)。(日)休み。 |