読んでたのしい、当たってうれしい。

ひとえきがたり

川村駅(熊本県、くま川鉄道)

べっぴん駅長 目標は100歳まで

乗客を迎える下田さん(左から2人目)。名誉駅長就任後は直接手紙が届くことも=熊本県相良村
乗客を迎える下田さん(左から2人目)。名誉駅長就任後は直接手紙が届くことも=熊本県相良村
乗客を迎える下田さん(左から2人目)。名誉駅長就任後は直接手紙が届くことも=熊本県相良村 地図

 観光列車「田園シンフォニー」が到着すると、名誉駅長・下田幸(みゆき)さん(93)が乗客を出迎えた。明るいピンクの口紅と指先のマニキュアがまぶしい。ツアーで訪れた滋賀県在住の70代男性も「俺もあの年まで元気でいたいねぇ」と驚きの表情を浮かべている。

 田んぼに囲まれ、普段は上下とも1時間に1本程度の列車を地元住民が利用する静かな無人駅。そんな地域を盛り上げようと、観光列車が運行を始めた2014年に近隣の女性たちが「おもてなしべっぴん隊」を結成した。

 列車が停車する間、和装姿で乗客にお茶を振る舞い、手作りのブローチなどを販売する。最年長の下田さんが沿線初の名誉駅長に任命されたのは昨年12月。「笑顔と温かい人柄で沿線の中でも特に人気の『おもてなし』です。下田さんには生涯続けて欲しい」と、くま川鉄道の下林孝さん(45)は話す。

 べっぴん隊には娘の奥山明美さん(63)と孫の美保さん(37)も加わる。「もっとひじを高く上げんと」。美保さんが敬礼のポーズについてアドバイスすると下田さんも「敬礼なんてしたことがなかけん」と言いながら「このくらいかね」と手を上げて応える。

 これまでわずか5分だった停車時間は3月のダイヤ改定でさらに短くなる予定だ。しかし「お客さんとのふれ合いが楽しい。百歳まで頑張りますよ」と下田さんは意気込んでいた。

文 渡辺鮎美撮影 伊ケ崎忍 

 沿線ぶらり  

 くま川鉄道は、人吉温泉駅(熊本県人吉市)と湯前(ゆのまえ)駅(同県湯前町)を結ぶ24.8キロ。1989年、JR九州から人吉市などが出資する第三セクターになった。観光列車田園シンフォニーは、人吉温泉駅から1日1便(要予約、TEL0966・23・5011)。工業デザイナーの水戸岡鋭治さんが車両デザインを手がけた。

 人吉温泉駅からすぐの人吉鉄道ミュージアムMOZOCAステーション868では、JR肥薩線などの魅力を映像やジオラマで紹介している。特産品を販売するほか、子ども用の駅係員の制服も貸し出す(200円)。

 

興味津々
ちょっと贅沢(ぜいたく) とろけるプリン

 観光列車田園シンフォニーの車内販売で人気なのが「ちょっと贅沢(ぜいたく) とろけるプリン」(写真、350円)。熊本県錦町の「花ごころ」(TEL0966・38・1187)の店長、吉村真理さんが作る。あさぎり町の高校で飼育された鶏の卵など地元の食材を使った。通信販売も可。

(2016年3月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

ひとえきがたりの新着記事

新着コラム