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街の十八番

飯島桐簞笥(たんす)製作所@埼玉・春日部

桐材づくりから加工まで

約30立方メートルの桐材が並ぶ資材置き場に立つ飯島さん
約30立方メートルの桐材が並ぶ資材置き場に立つ飯島さん
約30立方メートルの桐材が並ぶ資材置き場に立つ飯島さん 東日本大震災以降、2段重ね(48万円~)のタイプを多く制作。小ぶりでも中の容量は確保している

 埼玉県東部に位置する春日部市。特産品の「春日部桐(きり)たんす」は、江戸時代の初期、日光東照宮の造営で集められた職人が、日光街道の宿場町で桐が多く自生していたこの地に住みつき、指物(さしもの)などを作ったことが始まりとされる。

 同市在住の伝統工芸士飯島勤さん(58)は、父方の家業を継ぎ、40年にわたってたんす作りに携わる。江戸中期に創業した市内屈指の桐たんす工房に18歳で弟子入りし約4年間、伝統技法を学んだ。

 父から受け継いだ素材選びでは、秋田県の市場へ出向き、国産の桐材を丸太から買い付ける。「無駄が出て労力もかかるけれど、一から良いものを作ることができる」

 購入後約1年間、雨風にさらして渋を抜く。その後倉庫へ移して乾燥させ、狂いのないまっすぐな材に仕上げる。用途別に製材した桐の板は、丁寧に鉋(かんな)をかけ、凸凹に彫った「ほぞ」を差し合わせるなどして組み立てる。「先人が考え抜いた工程は、何一つ省くところがない」と飯島さん。十二分に手間をかけたたんすからはほのかに桐の香りがした。

(文・写真 尾島武子)


 ◆埼玉県春日部市豊野町1の1の9(TEL048・734・3922)。午前8時~午後5時半。(日)休み。春日部駅からバス。

(2017年8月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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