月初めに決まって浪曲の口演がある劇場「木馬亭」(東京・浅草)の向かいの食堂です。劇場入りする前、舞台がはねた後、浪曲師や曲師(三味線)のおなかを満たしてくれます。
食事に汁ものが欠かせない私にとって、この店のお雑煮は格別。てらいのない下町の味わいで落ち着きます。
鶏肉のおつゆはガツンと濃いめ。舞台前に食べるとやる気が注入されます。お餅にホウレン草、かまぼこもおいしいうえ、落とし卵の固さが絶妙です。おはしでつついても黄身が流れ出さない程度の半熟。ポイント高いですね。
今年2月に沢村豊子師匠の米寿の会を催したのですが、その打ち上げのことは忘れません。いつもお雑煮を食べているはずの師匠が「こんなおいしいのは初めてだよ」と満面の笑み。特別な日に弟子たちに囲まれ、喜びもひとしおだったのでしょう。
師匠に入門して10年目になりますが、いつも私たち芸人の悲喜こもごもとともにあるお雑煮です。
おにぎりはコンビニの1・5倍、いや2倍かも。大きい!と言われるけれど、私にはちょうどいい。木馬亭の舞台を裏で支える若手のため、師匠方が楽屋に差し入れてくれます。つらいことも多い修業とともにあるので、少し塩気が利いた味わいです。
(聞き手・桝井政則)
◆東京都台東区浅草2の3の26(☎03・3841・5686)。午前10時~午後5時。水曜休み、ほかに不定休。お雑煮715円、おにぎり165円(ともに税込み)。おにぎりの具はうめぼし、しゃけ、おかか、こぶ、みそ、はとうがらし。
ひろさわ・みふね 曲師(三味線)。千葉県佐倉市出身。歌舞伎や文楽をきっかけに三味線に興味を抱き、様々な芸に触れて音色を聴き比べるうち、木馬亭で聴いた沢村豊子さんの音のとりこに。豊子さんと話したくて日本浪曲協会の三味線教室に通い始め、2015年に入門。