秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
アンダーソン監督作品が大好きです。童話風の世界観にシニカルな演出やほろ苦さがあって。この映画も公開前から心待ちにしていました。
舞台は1960年代、アメリカ北東部のニューイングランド沖に浮かぶ島。里親に育てられているボーイスカウトの男の子サムは、本好きな女の子スージーに恋をします。周囲になじめず問題児扱いされている12歳の2人は駆け落ちを決行。大人たちの捜索が始まり、島中を巻き込む騒動に。
追っ手から逃げる途中、スージーが置き忘れた双眼鏡をサムが危険をおして取りに戻るシーンが好き。「あれは彼女の魔法だから」って。スージーは遠いものが近くに見える双眼鏡を「魔法」として大事にしていました。その双眼鏡で母親と町の警官の密会を見てしまうんですけどね。本来なら子どもの駆け落ちなんて無謀だけど、男の子が女の子の魔法を理解しているという、その信頼があるだけで2人の関係は揺るがない気がします。もしかしたら未来でも一緒にいるような――。
サムがスージーに贈った、釣り針と虫の死骸で作ったピアスも印象的でした。釣り針は「返し」があるから、一度耳に刺したら外れない。でも飾りの虫はいずれ腐って永遠ではない。そんなアンバランスさが2人によく似合っていました。
イラストに描いたのは語り部のおじいさん。結末を知った上で見る人に語りかけてくる、現実とフィクションの間に立つような人物です。ハラハラさせられるシーンもありますが、彼の存在が「物語」らしさを強調してくれて、結末まで安心して見ていられました。
(聞き手・星亜里紗)
監督・共同脚本=ウェス・アンダーソン
製作=米
出演=ブルース・ウィリス、エドワード・ノートンほか なくい・なおこ
1976年生まれ。文芸作品を中心に本の装丁を手がける。2014年、講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。 |