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私の描くグッとムービー

名久井直子(ブックデザイナー)
「ムーンライズ・キングダム」(2012年)

アンバランスな12歳の駆け落ち

名久井直子(ブックデザイナー) 「ムーンライズ・キングダム」(2012年)

 アンダーソン監督作品が大好きです。童話風の世界観にシニカルな演出やほろ苦さがあって。この映画も公開前から心待ちにしていました。

 舞台は1960年代、アメリカ北東部のニューイングランド沖に浮かぶ島。里親に育てられているボーイスカウトの男の子サムは、本好きな女の子スージーに恋をします。周囲になじめず問題児扱いされている12歳の2人は駆け落ちを決行。大人たちの捜索が始まり、島中を巻き込む騒動に。

 追っ手から逃げる途中、スージーが置き忘れた双眼鏡をサムが危険をおして取りに戻るシーンが好き。「あれは彼女の魔法だから」って。スージーは遠いものが近くに見える双眼鏡を「魔法」として大事にしていました。その双眼鏡で母親と町の警官の密会を見てしまうんですけどね。本来なら子どもの駆け落ちなんて無謀だけど、男の子が女の子の魔法を理解しているという、その信頼があるだけで2人の関係は揺るがない気がします。もしかしたら未来でも一緒にいるような――。

 サムがスージーに贈った、釣り針と虫の死骸で作ったピアスも印象的でした。釣り針は「返し」があるから、一度耳に刺したら外れない。でも飾りの虫はいずれ腐って永遠ではない。そんなアンバランスさが2人によく似合っていました。

 イラストに描いたのは語り部のおじいさん。結末を知った上で見る人に語りかけてくる、現実とフィクションの間に立つような人物です。ハラハラさせられるシーンもありますが、彼の存在が「物語」らしさを強調してくれて、結末まで安心して見ていられました。

(聞き手・星亜里紗)

 

  監督・共同脚本=ウェス・アンダーソン
  製作=米
  出演=ブルース・ウィリス、エドワード・ノートンほか
なくい・なおこ
 1976年生まれ。文芸作品を中心に本の装丁を手がける。2014年、講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。
(2020年2月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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