読んでたのしい、当たってうれしい。

マリオンTIMES

はじめまして、仏(ブツ)好きの三味線弾きでございます

はじめまして、浪花節の曲師(三味線弾き)の広沢美舟と申します。

浪花節は浪曲とも申しますわが国の語りもの。詳しくは玉川奈々福お姉さんのコラム「ななふく浪曲旅日記」にてお楽しみくださいませ。

さて、一介の三味線弾きのオノレがなぜ仏像のコラムを仰せつかったのか、自己紹介がてら、少しくご説明したく存じます。

何を隠そうこのわたくし、物心つく前よりの仏(ブツ)好きなのです。

 

 

母いわく、齢二つにしてお寺で見た憤怒相のお不動さんの側から離れたがらず無理やり引き離そうとすると泣きわめいたそう。ポケモン全盛期の小中学校時代、可愛いらしいモンスターに目もくれず、起き伏し仏像の写真集をめくっては奈良・京都に一人旅。大学時分にいたっては、くさくさすると矢も盾も堪らずその日の夜行バスに飛び乗ること、ばんたび(編集者注=関東の一部地域の方言で「毎回」「いつも」)。

こんなわたしに「そんなにお好きなら書いてみませんか?」とお声がけをいただいた次第です。仏教の法(のり)、仏像の知識などは持ち合わせていませんので、そこはご容赦、あくまでも個人的「好き」をつづってみようという試みです。

仏像って、なぜこんなにも人を魅了するのでしょう?

ちょっと想像してみましょう。

慈悲に満ちた半眼、ふくふくとした頬や体躯、流麗な衣紋の襞、まるで一度も地を踏み締めていない赤子のようにもっちりとした足裏、筋骨隆々の頼もしさ、光背からお堂に満ちた飛天、パワーがかたちとなった持物、多面多臂の妖しさ、おどけた表情の邪鬼。

考えただけでうっとりしてしまいませんか(笑)。

 

 

それにとまらず、経年による変化、まだらに剥落した彩色、摩滅、欠損。おいたわしい一方で、まとっている時代や刻をも地層のごとく含み持つお姿には、はなはだ安堵を覚えます。

個人的趣味で恐縮ながら、お年を召された方のしみやしわが愛おしくて。時を経てその方の置かれた時世、心のありよう、あらゆることが底から浮き出ているようで堪らないのです。それに似た感覚でしょうか。

しかし、仏像が単に像、かたち、というのみであれば、あるいはここまでの魅力は感ぜられないのかもしれません。

発願主の念、それを受けた仏師の願い、ひねもす煙にいぶされながら幾多の祈りを身に受けてこられたからこその、きらめきがあります。このところ出開帳で博物館や美術館でお目にかかる機会も増えましたが、やはり祈りの庭であるお堂で拝するのが一等でしょう。

 

 

申すまでもなく仏像は釈尊、そして教えを実践するためのよすがであります。もとは我々人間の大先輩にして人を超えた存在であるお釈迦さまなればこそ、あの理想的な造形なのであり、ひいては理想的な「心の在り方」をも示してくれているのではないでしょうか。

しじま、安らぎ、いつくしみ……、仏にまみえれば、そんな言葉が浮んできます。はて、そのお心は? 「一心に衆生を救わん」とか「仏法の邪魔だてする奴は許さん!」とか、多分そんな一切雑念のない気持ち。煩悩まみれの襟を正されたり、はたまた「これでいいんだよ」とうべなってくれたりと、時々のこちらの精神状態で、仏さまが見せてくれる表情が変わるのもおもしろいものです。

およそ仏像の前に立つ自分は丸裸です。己をあずけてお顔の表情に没入すれば、不思議やふしぎ、すうっと心が定まる! 瞑目すれば現在(いま)浄土ではありませんか! 世界は心ひとつがつくっているのだと身をもって知り、自然とありがたい心持ちになります。

コラムのタイトルにある「観仏」とは両のまなこで見るに限らず、きっと五感で感ずること。仏さまとの対話は、他ならぬ己自身との対話でもあるのでしょう。みなさま、いつも心に仏(ブツ)を!

 

 

話を浪花節に戻しますと、浪花節は物語をかたる芸能です。その物語にひととき、いま置かれているままならない状況を離れ、自己をも消して心を浸す。そんな体験が、あれやこれやに翻弄される心身を癒してくれるものと確信します。日々舞台を務めながら物語の持つ力に一番救われているのは、ほかならぬわたしです。お運びくださるお客さまともそんな体験を共有できる一席がいつかできますよう、きょうも頑張って参ります。

はなはだふわっとしたお話を申し上げましたが(笑)、まずはごあいさつまで。次回からは、いま会いたい仏さまを選んで、わたしの好きポイントをばお届けしたいと思います。

「みふねの観仏三昧」、お見捨てなくお付き合いのほどを。

 

 

ひろさわ・みふね 曲師(三味線)。千葉県佐倉市出身。歌舞伎や文楽をきっかけに三味線に興味を抱く。浪曲の定席「木馬亭」で聴いた沢村豊子さんの音に魅了され、2015年に入門。幼いころから仏像が好きで、小学生で土門拳「古寺巡礼」を読みふけり、中学生になると一人高速バスに乗って奈良へたびたび仏像めぐりに。いまも多忙な浪曲口演の合間に仏様に会いに行く日々。

◆「みふねの観仏三昧」は毎月第三土曜に配信します。

マリオンTimesの新着記事

新着コラム