秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
最後まで訳の分からない悪夢みたいな話です。主人公の男と彼女の間に子どもができるんだけど、その赤ちゃんは首から下を包帯で巻かれた、顔も体も異形の姿。彼女は家を出て行き、1人で育てることになった男が見つめる部屋の暖房用ラジエーターの中には、ほおにコブがついた女が踊るステージが現れて……。
説明や解釈をしても意味がない話ですが、過程が妙にリアルで、また見たくなっちゃうんです。劇場でこの映画を見た当時、上京した僕が住んでいたのは4畳半一間。閉塞感や孤独感が、主人公の住む狭い部屋と重なるのか、今見ると懐かしい感じもあります。
僕が好きなのは作品に流れる「ギャグ」。この映画を見ると笑っちゃうんですよ。一番は、彼女の家族が男を食事に招くシーン。他人の家で飯を食う気まずさを、抽象的で普遍的に描いているような感じがします。娘の発作をなだめる母親、微動だにしないおばあちゃんの腕を使ってサラダを混ぜる場面も、その家では日常なんだろうなと。父親の張り付いたような笑顔も笑えます。
「間」の取り方なんでしょうね。笑いって普通、常識を基点にしないと成り立たないんです。常識の真反対をいったり、少し外したり。この映画を見るまでは、常識が通用しない世界で、「間」だけで笑いが成り立つ経験をしたことがなかった。映画の影響もあるのか、僕はその後、「もにもに」という作品を描いています。生物かも分からない物体、雲や地面とも思える長方形や線が登場する、一切常識がない世界です。自分なりに、究極の漫画を描いたつもりです。
(聞き手・中村さやか)
監督・脚本・美術=デビッド・リンチ
製作=米
出演=ジャック・ナンス、シャーロット・スチュワートほか あいはら・こーじ
1963年生まれ。代表作に「コージ苑」「かってにシロクマ」。近著に「こびとねこ」。週刊アサヒ芸能で「コージジ苑」を連載中。 |