秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
根が子どもなのか、派手なアクションやカーチェイスなんかが売りのハリウッド映画を、ゲラゲラと笑って見るのが好きな人間でしてね。でも、この映画は私が28歳で入門して間もない頃かな、妻がDVDで借りてきたのを一緒に見て、幼い兄妹と家族の温かさに胸を打たれた作品です。
舞台はイラン。兄のアリが、修理してもらった妹ザーラの靴をお使いの途中に紛失してしまいます。家が貧しいため、なくしたことを親には言えず、兄妹はアリの運動靴を交代で履いて学校に通うことに。ある日、アリは学校対抗のマラソン大会で3等の賞品が運動靴だと知り、出場します。妹のためにがむしゃらに走るのですが……。
この物語は落語と共通点が多いんです。例えば、靴を買ってあげられない親にしろ、遅刻したアリを叱る教師にしろ、登場人物に根っからの悪人がいない。また、歌舞伎のような華やかな見せ場はないけれど、話の緩急で人をワクワクさせている。あと、全く押し付けがましくなくて、見る人によって受け取り方が様々。私は、お父さんの自転車の荷台に積まれた靴を見て、「幸せ」ってその手前にあるのが真の幸せなのかなぁって。
よく噺家(はなしか)は「間が大事」って言われるもんで、しゃべらない時間をどれだけうまく使って、受け手の想像をかき立てるかが重要。無駄に話しちゃぁダメ。この映画は、走っているか表情だけのシーンが多く、せりふが少ない。でも、言葉以上に伝わるものがある。しゃべらないで楽しませられるって、我々からすれば理想。きっと、この監督は落語がうまいはずですよ。
(聞き手・井本久美)
監督・脚本=マジッド・マジディ
製作=イラン
出演=ミル・ファロク・ハシェミアン、バハレ・セッデキ、アミル・ナージほか さんゆうてい・けんこう
1970年福島県生まれ。98年、三遊亭好楽に入門。2008年、真打ち昇進。2月25日、東京・国立演芸場で独演会「けんこう一番!」。 |