秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
父チャンユーの急死で帰郷した息子ユーシェンが、村の語り草となっている父と母ディの恋を回想していくシーンがきれいで、愛(いと)しい気持ちになる物語です。
馬車で町から村に赴任してきた教師チャンユーのために、村の美しい娘ディが料理を作る場面。ふわっと上がる白い蒸気、器がカチャカチャ鳴る音、野菜を刻んでいる音とか、気持ちいいですね。あまり言葉がないのも好きで、色や音、顔の表情で語っていることや、からだを揺らすディの走り方も印象的です。
女の人の強さを感じる映画だなあと思います。18歳のディの色々考えない子どものような強さがたくましい。彼女の真っすぐさが想(おも)いをかなえていく。好きなシーンは、チャンユーにもらった髪留めを落として必死に探すところ。小さなことだけど、自分にとっては大事件。切なくて、ちょっと泣きそうになりますね。
40年後、チャンユーは亡くなり、ディは町から村までの道を、昔の葬儀のようにたった一人でも棺(ひつぎ)を担いで歩くと言い張る。息子も母の気持ちをかなえようとする。真っすぐな想いや、素朴な気持ちは何より強い。ディはチャンユーの教室での朗読の声に最後まで恋をしたまま年老いて。そのことと町と村をつなぐ一本道が重なる気がしました。
光るような風景と土の匂いがするたくましさのある、愛しい映画。思い出した時に、胸に美しいものが広がるというか、透明な空気や風で満たされる感じが大好きです。
聞き手・清水真穂実
監督=チャン・イーモウ
製作=米・中
出演=チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、チョン・ハオほか
おーなり・ゆうこ
大阪府出身。著書に「ことばのかたち」「きれいな色とことば」「こどもスケッチ」「てのひら童話」など。作詞も手がける。 |