秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
出会いは大学2年生のころ。東京・池袋の名画座「文芸坐」で、オールナイト上映していた4本立ての2本目にやっていたのがこの「股旅」。実は見たい作品は3本目だったので何の気なしに見始めたのですが、お目当ての作品以上に面白くて、感動したことを覚えています。
物語はタイトル通り、江戸・天保年間を舞台に、源太と信太、黙太郎の若者3人が一人前の渡世人を目指して各地を流れ歩く股旅物。冒頭では、仁義を切って一宿一飯を提供してもらう渡世人の作法を解説付きで描写します。彼らが身につけていた着物や三度笠はぼろぼろで汚れていたし、剣術はむやみやたら。出入りのシーンではおじけづいて腰もひけているんです。親分への義理で、源太が実の父親を斬り殺してしまうのですが、後悔の念から亡骸(なきがら)のそばで涙を流します。
僕は子どものころからよくテレビで時代劇を見ていましたが、そこに現れる主人公はみなアイロンがきいたような着物をまとっていて何よりヒーローで格好よかった。でも「股旅」の3人は貧しくてセコくて。若者ならではのふわふわした感じが、とても愛(いと)おしく思いました。渡世人をこんなふうに描くんだって、どの場面もリアルで斬新だったんです。
仕事で時代物の挿絵を手がけますが、滑稽で軽妙な感じを絵で表現できたらいいなって常に意識しています。面白いと思うことのなかには必ず新しいことが含まれている。この信念は「股旅」から学びましたね。
聞き手・尾島武子
監督=市川崑
脚本=市川、谷川俊太郎
出演=小倉一郎、尾藤イサオ、萩原健一、井上れい子ほか
いの・たかゆき
1971年生まれ。2016年と17年に放送されたEテレ「オトナの一休さん」では、キャラクターデザインと作画を担当。 |