秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
人生を楽して生きようとする、大学4年生の山本秋平が主人公。単位との引き換えに、卒論指導の教授が顧問をしている廃部寸前の相撲部へ入部するハメに。公式戦で一度も勝ったことのない古株部員の青木富夫と、寄せ集めメンバーで出場した大会結果は、惨敗。OBに罵(ののし)られ、秋平が「勝ちゃぁいいんだろ」と啖呵(たんか)を切ったことから、リーグ戦での勝利をめざして猛稽古がはじまる。
とつとつとした台詞(せりふ)の言い回しとファジーな会話のリズムに衝撃を受け、中学生の時から何度も繰り返し見てきた作品です。マネジャーがまわしを洗おうとする場面で、青木の「ダメだよ、まわしってどんなに汚れてても洗っちゃいけないんだよ」という台詞を口火に、秋平「うそっ」、青木「ホント!」……と、短い台詞にアップで画面がパッパと切り替わりながら進む感じが好きですね。「最初はくだらなくて笑えるのに、最後には何だかしんみりとした気持ちにさせられる」という人情喜劇の典型的パターンは、僕が漫画で描きたい世界観のお手本です。
初めこそ嫌々だった秋平は結局、相撲に魅了され、コネで決まっていた就職を蹴るんです。僕ね、秋平のように若い時に何かを犠牲にしてでも一つのことに没頭したかった。今を悔いているのではなく、その時分にしか出来ないことへの美学。今となれば無駄だと思う時間や感情って、大切なもの。この絵は、他愛(たわい)ない時間がずっと続いていくような若さゆえの一シーンです。
聞き手・井本久美
監督・脚本=周防正行
出演=本木雅弘、清水美砂、竹中直人、柄本明、田口浩正ほか
つるぎ・みきと
「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。妻はエッセイスト犬山紙子。近著に主夫マンガ「今日も妻のくつ下は、片方ない。」。 |