秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
市役所で事なかれ主義に生きてきた公務員の主人公。「彼は時間を潰しているだけ」「生きているとはいえない」――冒頭のナレーションに圧倒されました。人は無為に過ごすのではなく何らかの価値があってこそ生きている、と僕が思っていたことが投影されていたからです。
ある日、主人公はまさかの胃がん宣告を受ける。余命を知って自暴自棄になり、享楽的なキャバレーで「いのち短し、恋せよ少女(おとめ)」と歌いながら、一人絶望していく。その対比が印象的ですね。
僕は中学時代、病で半年間入院し、死と隣り合わせの生活でした。完治した高校時代は生き急ぐように活発になりました。そんな自分と、市民が熱望する公園建設に晩年をかける主人公の姿が重なったんです。何もせずに退職して死んでいけば意味のない「生」になってしまう。他者のために命を削って何かをしたからこそ輝く「生」が浮かび上がってくる。
東京芸大を目指し5浪していたころ、映画や舞台などに鼓舞され、文化とは希望を与えるものだと実感。一人の運命を変えてしまうくらいにね。僕も誰かを励ませる人に、と芸術家を志しました。
僕の作風にリンクしている、この映画に恩を感じ、今回絵筆をとりました。絵の中で数字を数えているのは、時間の流れや今生きていることを表現しています。ゼロがないのは生死を繰り返していくというイメージ。死を暗闇で表し、再び「生」が光り輝くというダイナミズムを作りました。
聞き手・石井広子
監督=黒澤明
共同脚本=黒澤明、橋本忍、小国英雄
出演=志村喬、日守新一、田中春男、千秋実、小田切みきほか みやじま・たつお
9月10日まで、宮城県石巻市で開催中の「リボーンアート・フェスティバル」でLEDを使用した作品「時の海―東北」を展示。 |