秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
レオス・カラックス監督の13年ぶりの作品だったので、心待ちにしていました。主人公のオスカーは、何らかの機関に依頼を受け、指定された人物に変装し、時間刻みにあるシーンを演じていきます。白いリムジンでパリ中を巡り、物乞いの老婆、怪物「メルド」、殺人者、娘を迎えに行く父親など、年齢も立場も異なる11人を演じるオスカーの一日を追った映画です。
冒頭、カラックス監督自身が登場し、部屋の中に隠し扉を見つけます。入っていくと映画館へ続いている。まるで夢への導入部のようです。夢って、何の説明もなく、唐突にあるシーンが始まりますよね。夢の世界に自分が突如存在していて、目覚めるのと同時にかき消える。オスカーは、俳優という職業を表しているようであり、映画監督の頭の中を表しているようでもあります。どちらも夢に似ている。
その夜、オスカーは同業者で昔の恋人と再会します。2人は、閉鎖されたパリの老舗デパート「サマリテーヌ」の中を歩くのですが、撮影時は明かりもなく、時が止まった廃虚(はいきょ)のような状態。アールヌーボー様式の吹き抜けの美しさや、化粧品の香り、にぎやかだった頃を思い出し、なんとも悲しくなりました。でも今進んでいる改築工事が終わり、息を吹き返した「サマリテーヌ」に行ったら、この映画を懐かしく思うんじゃないかな。夢って懐かしい記憶のようなところがないですか?
聞き手・秦れんな
監督・脚本=レオス・カラックス
製作=仏・独
出演=ドニ・ラバン、エディット・スコブ、カイリー・ミノーグほか 代表作に「西荻夫婦」や映画についてのエッセー「ハルヒマヒネマ」、映画化された「王様とボク」「ラマン」など。テレビドラマの脚本も手掛ける。
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