秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
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1952年のニューヨーク。デパートで働く写真家志望のテレーズの元に、金髪のキャロルが買い物にやって来る。それぞれボーイフレンドや夫がいる身ながら、2人はひかれ合います。
物語はシンプルで静かに進みます。それでいて濃密に感じるのは、抑制のきいた色彩や叙情的な音楽の効果でしょう。印象深いのが、車窓などのガラス越しの画(え)作り。2人の心情を表すようにガラスが結露で曇っていたり、ほこりで汚れていたりと、演出が細かい。ゆっくりと流れるようなカメラワークと相まって、作品世界に心を持って行かれます。
テレーズはキャロルとの週末が思いがけず台無しになって涙するなど、見ていて甘酸っぱい気持ちになります。キャロルはおしゃれで堂々とした、意志の強そうな人。でも実は、薄い殻の中で様々な思いが渦巻いていて、時に弱気になる。そんな感情の機微を、視線や表情で雄弁に語ります。僕が描く女性の場合は、描き込みが少ない分、見る人が感情や性格を自由に解釈できるのではないでしょうか。イラストの2人からも、それぞれの内面を想像してもらえればと思います。
物語の終盤、キャロルはある決断をします。大切なものを代償にしても、自分を貫くんです。自らの気持ちにいかに向き合うか。同性愛者に限らず、社会規範に縛られたみなに通じるテーマですね。最後にキャロルがカメラへ向ける表情は圧巻。ぜひ、彼女に見つめられてみて下さい。
聞き手・中村和歌菜
監督=トッド・ヘインズ
製作=英・米
出演=ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラほか しらね・ゆたんぽ
1968年生まれ。広告やウェブコンテンツ、書籍、雑誌などのイラストを手がける。ブログやツイッターで個展の情報などを発信。 |