静物
洋画を習い始めて数カ月で帝展初入選したデビュー作。抜きんでた描写力。
戦闘機のパイロットと思われる少年。コックピットから顔を出し、ポーズを取っているようだ。
洋画家の中谷ミユキ(1900~77)が太平洋戦争中、「女流美術家奉公隊」の一員として描いた。奉公隊は陸軍報道部の指導のもと、洋画家の長谷川春子、三岸節子ら女性美術家約50人で結成。少年を戦地に送る母親を鼓舞するために戦争画を制作し、巡回展を開いた。
43年の「戦う少年兵」展で中谷は、戦車点検の様子を細部まで描いた作品を発表。対して翌年の「勝利の少年兵」展に出品した本作は、急いで描いたかと思えるほど筆のタッチが荒い。少年の目は黒く塗りつぶされ、表情も定かでない。
「戦局が悪化したことで、実際に少年を取材することなく写真を参考に描いたのかもしれない」と、学芸員の野田路子さんはみる。
会場では、「戦う少年兵」展出品作の絵はがきも展示している。