象限儀
全国測量の旅で伊能忠敬も愛用。正確な地図作りに欠かせない道具
1981年 227.3×182.0㌢ 紙本着色
刈谷市美術館蔵
燃えるような朱色の大画面に、びっしりと描き込まれた神仏。細密な描写はまるで曼荼羅(まんだら)のようだ。
愛知県豊橋市を拠点に活動した高畑郁子(1929~2023)は1974年に訪れたインドの光景に衝撃を受け、朱色を基調に信仰世界を描く独自の表現を確立した。
本作を描いたのは、北部の秘境ラダックを訪ねた2年後。後景にはチベット密教の神仏や仏塔が見える。梵字(ぼんじ)の経文がちりばめられ、神仏の世界が前景の人々を包み込むようだ。
「前景と後景が溶け合って見えるような、不思議な感覚になります」と学芸員の古池幸代さん。「高畑は信仰とともに生きる人々に関心を寄せ、神仏の世界と密着した生活を描いてきた」と説明する。
高畑の探究心と制作意欲は晩年まで衰えず、ネパールや中南米、国内の霊場などを取材しモチーフとした。